Cadetto.jpに短期連載した「崎長ライト、熊本へ」で、甚大な被害が発生した阿蘇地区において感染制御チーム(ICT)が立ち上がるまでを物語風に報告した崎長ライト氏。医療支援の現状をより知ってもらいたいということで、連載に登場したキーパーソンたちに崎長氏がリアルに質問したインタビューを数回にわたって掲載する。
 初回は熊本県下の感染対策の中心となって奔走した熊本県感染管理ネットワーク事務局の川口辰哉氏(熊本大学医学部附属病院感染制御部長)に、感染管理の現状を聞いた。(編集部)


被害が甚大だった阿蘇地区の感染対策を担ったメンバー。左から2人目が川口辰哉氏。左から田中健之氏(長崎大)、川口氏、泉川公一氏(長崎大)、甲斐豊氏(阿蘇医療センター)、山内勇人氏(大分佐伯保養院)

――今回の震災での熊本県感染管理ネットワークの活動を教えて下さい。

川口 熊本県感染管理ネットワーク(以下ネットワーク)は、2010年に熊本県地域医療再生計画に基づき、地域医療再生臨時特例交付金の助成を受けてスタートした組織です。これまで、地域の微生物サーベイランスを行う「感染情報地域連携システム」の構築、感染管理認定看護師(CNIC)など専門資格取得を目指す人を経済的に支援する「専門職者育成事業」などを行ってきました。感染制御チーム(ICT)を有する県下の医療機関の多くが参加しており、今回の震災でも、このネットワークが大いに役立ちました。また、ネットワークの資金援助を受けて新たに誕生したCNICが、この震災で大活躍してくれました。

 もっとも、ネットワークが地震発生当初から機能していたわけではありません。むしろ、これまで災害時の対応は想定したことがなく、全く白紙の状態でした。避難所の感染管理が極めて重要であることは東日本大震災の事例から承知していましたが、まさか自分たちの身に降り掛かろうとは想定外としか言いようがありませんでした。

 まずネットワークではCNICが中心となって各施設の被災状況や地域の避難所の情報収集を開始しました。それぞれの病院の機能が維持できているのかを確認し、ライフラインが寸断された中で院内感染を起こさないように注意し合いました。やがて日赤の災害対策本部からICT派遣の要請もあり、我々は待ったなしの状況に追い込まれました。そこで仲間とも相談し、ネットワークのCNICからボランティアを募り、ニーズの高い日赤のICTをサポートする活動を始めました。幸いにも多くのCNICが手を挙げてくれて助かりました。

 さらに被害が甚大な地域(阿蘇や益城)にはICTの組織的介入が早急に必要でしたが、当初は被災した地元の医療機関からのICT派遣はままならず、県外からの派遣を受入れるための調整役を引き受けました。また、日本環境感染学会(賀来満夫理事長)から物心ともに多大なご支援をいただきましたが、その連絡窓口も私たちが務めさせてもらいました。

 状況が落ち着いた現在、ようやく地元の主要医療機関のICTが業務の一環として、主に熊本市内の避難所のラウンドを実施できるまでに体制が整っています。

避難所のトイレでは、ICTが作った手洗いマニュアルで注意を喚起。

――熊本県全体の感染管理の現状はどうなっているでしょうか。

川口 地震発生から1カ月が経過し、避難者数は減少傾向にあります。避難所も集約されつつあります。これに伴い、全体として医療救護班の縮小・撤退が始まっており、避難所の感染管理も保健師さんに依存する比重が高まっています。

 ネットワークでは、今後長期化する避難生活を想定し、被害の大きかった地域の避難所における症候群サーベイランス(発熱、下痢、呼吸器症状の調査)を開始しました。その結果を行政とも共有しながら防疫に役立てていく予定です。地域によってはICT巡回を完全に中止し、感染症が増加する場合にのみICTが介入する体制をとっています。

――今回の地震に関して、どういうことを感じていますか。

川口 災害医療の組織化で不足している最後のピースが、感染管理に特化した医療チームではないかと感じています。

 本邦では災害時の医療支援体制は良く整備されており、平時から訓練されたDMATや日赤など各種団体の医療救護チームが、それこそ瞬く間に現地に集結するのを目の当たりにしました。一方で、災害時の感染管理に関しては、現場のニーズがあるにもかかわらずICT派遣の仕組み自体がなく、DAMTを横目にして少々心細く、暗中模索の状態が続きました。

 そのような中でも、地元ネットワークのメンバーは労を惜しまず協力していただき、まさに一体感を感じることができました。さらに日本環境感染学会の皆様にも様々なアドバイスをいただき、私のコーディネートを支えていただいたことは、感謝のひと言です。広い意味で、このようなネットワークの重要性を再認識させられた1カ月でした。