4月14日に発生した2016年熊本地震から13日目の4月27日。滋賀県医師会より出動要請を受け、滋賀県医師会JMAT第1班が熊本に出動した。隊員として参加したハッピーねもとクリニック(滋賀県大津市)院長の根本正氏に、現地での活動の一端を聞いた。


右が根本正氏。左は同じ滋賀県医師会JMAT第1班として出動した看護師の谷口たつよ氏(提供:根本氏、写真1、2も)

 日本医師会災害医療チーム(JMAT)として、私たち滋賀県医師会JMAT第1班(医師3人、看護師1人)が実際に行った医療活動については後半で報告したい。ここではまず、JMATの医師だからこそできたと思われる医療以外の現地ニーズへの対応について紹介する。

 私は、開業する前は呼吸器外科医、救急医として病院で働いていた。災害医療の訓練は受けていたものの実働経験がなく、いわばペーパードライバーのようなものだった。2011年、東日本大震災が発生したとき、開業してまだ間がなかったので、自分が現地に赴いたら地元の滋賀県の患者さんに迷惑がかかる、と言う思い込みで東北に行く勇気を持てなかった。しかし、行かなかったことは後々まで心に引っかかっていた。

 転機となったのは2013年6月。自らの病気のため、火曜日から日曜日まで病院に入院した時である。クリニックは休診としたが、混乱することはほぼなかった。その時に、自分がいなくても何とかなるということを確信した。ならば、もし次に災害があったら必ず行こうと改めて思った。そこに今回の出動要請である。4月25日に滋賀県医師会より出動要請があり、ペーパーでも大丈夫と自分に言い聞かせて受諾した。

 話を戻す。災害現場におけるトイレ保清の重要性は議論を待たないが、なかなか「言うは易く行うは難し」である。掃除には水が欠かせない。ところが今回の熊本地震では、被災地である益城町で下水道が壊滅的被害を受けたため上水道もほぼ停止していた。掃除用水の確保には20リットル入りのポリタンクを200メートル近く運ばなくてはならず、被災者たちを悩ませていた(写真1)。同じJMAT隊の医師も高齢の女性から水くみの大変さを聞いており、その情報は隊員間で共有されていた。

写真1 トイレの清掃には20リットル入りのポリタンクを200メートル近く運ばなくてはならなかった

 ある高校生との出会いが問題解決の糸口となった。我々滋賀県JMAT隊員は、避難所の1つである益城町商工会の建物を中心に活動を行っていた。そこで出会った高校生に付近を案内してもらい、復旧している電気を利用した汲み上げ式の地下水の蛇口(写真2)が避難所のすぐそばに存在することを教えてもらった。

写真2 復旧している電気を利用した汲み上げ式の地下水の蛇口

 早速、現地JMAT本部のある益城町保健福祉センターに戻り、本部に詰めている益城町議会事務局長と面談。現状報告を行い、ホースの工面を依頼した。対応は非常に速やかで、数分の間でホースの手配が終了した。ホースを用いて、トイレまで水を引いた時にも、あの高校生が多くの作業を担ってくれた。

 さて、もしも私たちがJMAT隊の制服を着用していなかったら、現地の公務員と直接交渉し、ホースの工面ができたであろうか? 答えは、恐らく不可能ではないが、相当な時間と労力を要したと思われる。まず、本部に入ることが不可能であったと考える。また、制服に「医師」と明記されていたことも彼らから信頼される要因であったと感じるが、いかがであろうか?

 私たちJMAT隊員は、ことさら医療に特化しようとするが、少しだけ医療以外にも目を向け、避難所の方々と交流して情報を得ることができれば、むしろ現地の人々より早く行政職員と話ができ、現地ニーズに応えることができるのではないか。今回のことを通じて、JMATは医療以外の貢献もできるということを強く認識した。

 補足として、ホースの入手によりトイレの保清が保たれたのならば、感染症の予防にもつながり、結果的に水を運ぶ労力という目の前にあるニーズを飛び越えて、予防医学という面での貢献もできたのではないかと考えている。