2016年熊本地震の被災地での医療は、地震災害直後の外傷や圧死などへの対応から、循環器疾患、感染症、精神疾患などの対応へと移ってきた。災害時の循環器疾患の実態と対応について研究を重ねる自治医科大学教授の苅尾七臣氏は、避難生活が長引くにつれて、特に循環器疾患の増加が懸念されると指摘。たこつぼ型心筋症や突然死、さらには高血圧関連疾患の対策を急ぐべきと訴える。


自治医科大学教授の苅尾七臣氏

―― 14日に発生した前震から2週間が経ちました。地震による直接の被害で死亡した人は4月26日までに49人に上り、また災害に関連すると思われる死者は14人を数えます。

苅尾  災害に関連すると思われる死亡が多く、気になります。震度7という強い地震が2度も起こり、6弱や6強といった余震も相次いでいます。そのため被災された方々には、連続して大きなストレスがかかっているのではと思います。避難所だけでなく、車の中で過ごしている人も多いことを考えると、今後、循環器疾患の増加が懸念されます。

―― 日本内科科学会は発災直後、いち早くホームページ上で、災害医療に関する情報を提供し始めました。その中に、先生が書かれた「災害時の循環器疾患:内科診療の留意点」もありました。

苅尾  今回の熊本地震はいわゆる直下型地震で、倒壊した家屋が目立っており、大きな余震も続いています。同じく直下型だった阪神・淡路大震災や2004年新潟中越地震、2008年岩手・宮城内陸地震では、長く続いた余震活動により循環器系疾患の発生が問題となりました。熊本地震の状況は新潟中越地震に近いように見えますが、いずれにせよ循環器疾患の増加に留意する必要がありますから、内科医に対する情報提供の一環で取り上げていただきました。

―― 災害時循環器疾患の特徴をお話しください。

苅尾  まず第1点は、災害時の疾患発症には時系列があるということです。災害発生初日から数カ月間にわたって生じうるのは、たこつぼ型心筋症、肺塞栓症、高血圧関連疾患(脳卒中、心筋梗塞・狭心症、大動脈解離、心不全)です。これらの循環器疾患のリスクは、震災時には約1.5〜2倍ほど増加し、数カ月に及び持続します。この中で災害発生直後から発生するのが、たこつぼ型心筋症です。肺塞栓症は、深部静脈に血栓が生じてから発症するために、災害発生から3目日以降の発症となります。高血圧関連疾患は発生直後から発生し、そのリスクは生活環境が改善するまで継続します。

水分を取ることがとても重要に
苅尾  それから、災害時循環器疾患の死亡リスクは、被害の深刻度に比例するという特徴があります。兵庫県淡路・津名郡医師会の調査では、災害時循環器疾患による死亡は被害の大きさに正比例し、特に避難所生活とは強い関連があることが分かっています。また、高齢者がハイリスク群である点も特徴です。最後に、夜間・早朝発症が増加するという点も注目点です。通常、循環器疾患は早朝に発症することが多いのです。しかし、震災時は夜間の発症が増えます。その影響が遷延した形で、早朝のリスクも増加します。夜間の発症が増えるのは、ストレスや避難所生活による睡眠障害の影響と考えられています。

―― 車中泊の人を中心に肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)の発症リスクが高いことから、予防策がとられています。

苅尾  末梢血の鬱滞が原因ですから、夜は足を高くした姿勢で眠るとか、日中は20分ほどでいいので歩くなどの運動をすることが大事になります。それから、水分を取ることがとても重要になります。これから暑くなりますから脱水が心配です。水分が不足すると、血液が濃くなりヘマトクリット値が上昇します。このため、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクが高まることになります。

―― 避難所などではトイレが混み合い、なかなか用が足せないという状況がありました。そのため、水を飲むことを我慢するという人もたくさんいたようです。

苅尾  時間が経つにつれ、仮設トイレも整備されるなど、避難所の環境は改善しつつあると思います。繰り返しになりますが、暑くなると熱中症の危険も高まります。水分をこまめに取ることは、とても重要になります。

―― 先生は減塩も重要だと指摘されてきました。

苅尾  災害時には最大血圧(収縮期)が平均で5〜25mmHg上昇することが分かっています。この上昇には大きな個人差があり、人によっては、震災前が120程度でも、180mmHg以上に上がる例もあります。災害高血圧といいますが、これは高齢者、CKD、肥満やメタボシンドロームなどの食塩感受性群で遷延することも分かっています。一時的な血圧上昇は、誰にでも起きますが、持続すると問題です。ですから、災害時こそ、高血圧の持続に関わる減塩が大切になるのです。

―― 被災地からは、度重なる余震でよく眠れないという声も届きます。

苅尾  もっともなことです。私も東日本大震災のときに避難所で寝泊まりしていましたが、アイマスクをして耳栓をして寝ました。しかし、床の振動が気になり眠れなかった経験があります。余震が怖いから眠れないというのは、当然のことです。もっとも、マットレスを敷いて振動を弱めることはできるはずです。仕方ないとあきらめたら、(マットレスを敷くなどの)改善にはつながりません。眠れないという声をあげ、避難所の環境改善につなげていくことは大切です。