予想外だったのは余震の多さだ。余震で被害が拡大し、新たな医療支援のニーズが生まれている。

 東日本大震災では、大きな地震と津波という1度の甚大な衝撃により生じた広範囲な被災に、いかに迅速に対応するかという対応が求められた。だが、今回の熊本地震は、大きな地震が生じた後に、継続して揺れが生じている。揺れが重なるほどに、建物には新たな亀裂が生じ、はじめの揺れでは問題がなかった建物でも、繰り返す余震によって倒壊の恐れが出てきたり、実際に倒壊するなど被害が拡大していっている。実際に、熊本市民病院など、複数の医療機関が五月雨式に機能不全に陥り、そのたびに大規模な患者の搬送が求められた。

 余震が続くほど被害は拡大する。私自身、東日本大震災のときもDMAT事務局で本部活動をしたが、あの時に比べても熊本・大分の医療支援は長期化するのではないかと予想している。

機能不全になった医療機関は避難所と同等
 熊本地震のDMAT活動で特に困惑したのは、余震で医療機関が倒壊する恐れが生じた場合の患者の搬送だ。倒壊する恐れが生じ、機能不全に陥った医療機関は、もはや医療機関ではない。本来であれば、患者の搬送には救急車を含む消防の援助が必要となるが、当初は医療機関間の患者の搬送と捉えられ、救急車の利用が控えられていた。

 熊本市民病院をはじめ、複数の医療機関が機能不全に陥ったが、500人もの患者の受け入れを、当初は佐賀県と福岡県の医療機関が申し出てくれ、最終的には消防からも協力してもらいつつ、各地のドクターカー、ドクターヘリなども活用して、大規模な患者の搬送は無事に終了している。

 被災地の状況は、既に急性期から慢性期に移りつつある。慢性期の支援は、急性期よりもさらにきめ細やかな配慮が求められる。

 特に今回の震災は、繰り返す余震によって避難所にいる被災者の不安が強い。また、1度目の地震の後に自宅に避難したものの、2度目に生じた本震で建物が損壊するなどして自宅にいられなくなり、車で避難した被災者も多い。こうした背景から車で生活する人が多いのは熊本地震の特徴とも言えるだろう。加えて、避難所の衛生管理が行き届いておらず、トイレに行かなくて済むようにと水分摂取を控えてしまう被災者も少なくない。車での生活と水分摂取量の不足が重なれば、エコノミークラス症候群の発症リスクが上がる。

 避難所の衛生管理を担うのは保健師だが、熊本市では保健師の数が不足しており、整備がまだ行き届いていない。そのため、トイレ環境が適切に整っていない状況にある。

 衛生管理に関する教育を受けているのは、医師、看護師、薬剤師、そして保健師しかいない。阿蘇市の避難所ではノロウイルスが流行し、多くの被災者が感染している。今後、ノロウイルスの感染や食中毒の発生を防ぐためにはまず、現地にいる支援スタッフで継続的に衛生管理を徹底することが求められる。

現地の需要に応じたきめ細やかな支援が求められる
 また、避難所には「災害弱者」と言われる妊婦や小児の他、複数疾患を抱える高齢者が多数いるはずだ。特に乳幼児や、認知症、統合失調症などの精神疾患を抱える患者やその家族へのきめ細やかな配慮は不可欠だろう。本来、こうした災害弱者への対応は、福祉避難所が担う。現状、どこまでその支援が行き届いているかは不明だが、十分でなければその支援を補助する必要もあるだろう。

 避難所の支援は少しずつ、DMATから保健所に指揮権を移し始めている。だが、物資の流れや情報収集を含め、各方面からの支援が途切れることのないようサポートし続けなければならないだろう。保健所やJMAT、各都道府県から派遣される医療救護班が被災地の状況に応じた支援ができるよう、指揮系統の仕組みや方法をしっかりと伝達してから、DMATは徐々に派遣を収束させていきたいと考えている。

 とはいえ、被災地の医療機関や薬局、保健所を含む行政がしっかりと支援ができるようになるには、かなりの時間がかかるだろう。引き際を見誤ると、被災地の支援が滞る可能性もある。撤退するタイミングは慎重に見極めながら実施される。