専門医取得の保証なし
 地域枠出身者の勤務先は自治体の都合で定められるため、専門医が取りづらいといった問題も起こり得る。「自治体から奨学金の貸与を受けている地域枠出身者は、専門医を確実に取得できる保証がない」と言うのは奈義ファミリークリニック所長の松下明氏だ。冨士田氏も、「まだ専門医制度が固まっていないこともあり、地域枠の医師として勤務を続ける中で、専門医を取れるかどうか不安に感じる」と話している。

 自治体の方針にもよるが、地域枠出身の医師は、自治体が定める医療機関に勤めるケースがほとんど。場合によっては初期研修後すぐに、指導医がいない医療機関への勤務を指示される可能性がある。

 2017年度から導入される新専門医制度では、指導医がいる施設に一定期間勤務し、専門医資格取得のために必要な症例数を確保し、手技経験を積むことが専門医の取得に求められる。各自治体は、専門医を取得するまでの間は地域枠出身者を基幹研修施設や関連研修施設に派遣し、各研修施設のプログラムに準じて勤務するよう指示するといった配慮も検討すべきだろう。

 だが、研修機関の多くは都市部にある。一方で自治体が地域枠出身医師に求めているのは、医師不足が顕著な地域での勤務。自治体が地域枠出身医師のキャリアをどの程度重視するかにより、処遇は変わってしまう。

 厚労省は地域枠出身者も専門医を取得できるよう、地域医療支援センターなどが主導し、自治体や大学、地域の医療機関の経営者などで協議することを推奨している。既に、話し合いの機会を設けている自治体もあるが、自治体には協議の場に出席する義務は課されていない。「地域枠を医師不足解消のために活用する政策を設けたのは国だ。地域医療を担いたいと思う地域枠出身の医師が働きながら専門医を取得し、キャリアを積める環境作りを、自治体任せにせず国が責任を持って推進していくべきだ」と松下氏は強調する。

 だが、地域医療再生基金の運用も、地域枠出身者の勤務先の決定も、自治体主導で行われている。そのため、国が容易にはコントロールできない状況にあるのが実情だ。

 地域医療を担う医師を養成する目的で設置された入試枠であれば、その質を担保する意味からも、専門医を取得できるようサポート体制を構築する必要があるだろう。さらに、個々の医師のライフイベントに応じて対応する柔軟性が奨学金制度になければ、地域枠に応募する学生がいなくなる可能性もある。各自治体は今後、地域枠出身の医師が本格的に増える前に、これらの問題点への対処法を模索する必要がありそうだ。