オーランチオキトリウム。ナイルレッド染色により、大量の油が光っている。(提供:筑波大学渡邉研究室)

 作物の残渣などから油やアルコールを生産・精製して活用しようとするバイオマスエネルギーへの関心が世界的に高まっている。とはいえ、他国に比べて耕地面積の絶対量が少ない日本において、バイオマスエネルギーによる直接的な恩恵は少なさそうだ。しかし、単位面積当たりの油の収量が桁違いという植物があれば話は別だ。

 トウモロコシなどの穀物残渣からバイオエタノールを作るよりも生産効率が10倍以上高いという藻類の研究が国内で進み、東日本大震災で津波に襲われた仙台の下水処理場でも、下水中の有機物から藻類を介して油を生産しようとする実証プロジェクトが進んでいる。

筑波大学大学院生命環境科学研究科教授の渡邉信氏。沖縄で発見したオーランチオキトリウム株を使った油の生産の実用化研究を進める。

 注目を集めているのは、従属栄養藻類の一種であるオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)。葉緑体を持たないので光合成はせず、有機物を吸収して生育する。筑波大学大学院生命環境科学研究科教授の渡邉信氏らのグループが世界各地の150カ所から採取した中からスクリーニングし、沖縄のマングローブ林で採取したオーランチオキトリウム18W-13a株を、炭化水素のスクアレンを高効率で生産する株として発見した。

 石油と似た成分を作り出す藻類はこれまでも知られている、実際、渡辺氏のグループも以前から、油を作る藻類として広く知られるボトリオコッカス(Botryococcus braunii)について研究を進めている。そして、ボトリオコッカスと比べると、オーランチオキトリウムの単位重量当たりの油の収率は少ないという。

図1 屋外生産フィールドのイメージ(提供:筑波大学渡邉研究室)

 しかし、特筆すべきはオーランチオキトリウムの繁殖の速さ。培養条件を探った結果、同一の容積および期間では、油の生産量はボトリオコッカスの10〜12倍に達することが分かっている。光合成を元々しないので、生育に光を必要としないこともメリットとなる。太陽光あるいは人工光を確保しなくても、有機物をうまく供給することで繁殖が可能となるからだ。

 油の回収や処理などの生産コストについても、ボトリオコッカスでは1L当たり800円程度かかるのが難点だったが、オーランチオキトリウムなら10分の1以下に下げられると期待されている。

図2 下水処理プロセスと藻類生産の融合(提供:筑波大学渡邉研究室)

 オーランチオキトリウムは現在、培養によって1L当たり1gのスクアレンを3日で作り出すことができている。その培養条件を試験プラント外でも再現できた場合、深さ1mの水槽ならば、1ha当たり年間最大約1万tの炭化水素を作り出せると試算されている。2万haの培養面積で日本の年間石油消費量を賄える量になる。農地転用の規制という行政の大きな壁はあるものの、現在38万haある国内の耕作放棄地の利用に道が開ければ、日本のエネルギー立国という期待もかかる。

 筑波大の研究グループは、ボトリオコッカスおよびオーランチオキトリウムの培養、油の抽出・精製の研究とともに、つくば市においては特区を活用して耕作放棄地における生産実証研究に着手している(図1)。また、仙台市の南蒲生浄化センターでは、東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクトとして、下水処理と藻類による油の生産を一体化したシステム開発の研究もスタートしている(図2)。