ロボットスーツ「HAL」は、体に装着することで、失った身体機能を改善・補助・拡張する世界初のサイボーグ型ロボットだ。下半身に障害をもつ人の歩行や立ち座り、階段昇降といった日常生活の動作をサポートするとともに、機能を改善する。

 筑波大学大学院教授の山海嘉之氏が開発したもので、国内では既に、福祉現場などでの使用が広がっている。脚力の弱った高齢者や下肢に障害のある人への自立支援などを目的に、同氏がCEOを務めるベンチャー企業「CYBERDYNE」が2010年からレンタルを開始。「HAL福祉用」として、医療機関や福祉施設約170カ所で稼働している。

 一方で2013年8月、医療用として開発されたタイプが、欧州で医療機器認証「CEマーキング」を取得。HALは、EU全域で医療機器として使用できるようになり、「治療ができるロボット」としても注目を集めている。

写真1 ロボットスーツHALの仕組み(提供:CYBERDYNE)
装着者の関節角度を測定する角度センサや重心の位置を検出するセンサも取り付けられ、より正確に動きを補助できる。下肢用で重量は約15キログラム。装着者が乗り込む仕組みのため、重さは感じない。

 対象は、脊髄損傷や脳卒中などの脳・神経・筋疾患の患者。HALを装着し、手順に従って治療を行うと、機能改善効果が期待できる。国内外で行われた臨床試験では、多くの症例で、機能改善や再生がみられ、歩行距離が伸びた例もある。

 HALの動作原理はこうだ。人が体を動かそうとすると、脳から運動ニューロンを介して筋肉に神経信号が伝わり、筋骨格系が動作する。その際、意思を反映した微弱な生体電位信号が皮膚表面に漏れ出してくる。HALは、装着者の皮膚表面に貼り付けたセンサーでこの信号を読み取り、動かそうとしている関節部のパワーユニットを調整。装着者の筋肉の動きと連動して筋肉を動かすことで、装着者の思い通りに動かすことができる。

 脊髄損傷などで長期間歩行機能を失っている場合、自分で筋肉を動かすための信号が非常に微弱で、筋肉も動かせない。その際には、ロボットが自律的に人間のような動作をする。この自律的な機能と、前述の装着者の意思に合わせて動きを補助する機能の二つのシステムが混在して作動することで、装着者の機能障害の状態に応じて、適切なサポートを実現するのだ。

 この仕組みは、山海氏が提唱してきた仮説「インタラクティブ・バイオフィードバック」に基づいて開発が進められてきた。「インタラクティブ・バイオフィードバック」とは、動作意思を反映した生体電位信号により動作補助を行うロボットスーツHALを用いると、HALの介在により、人の脳・神経系と筋骨格系の間で人体内外を経て「双方向の生体フィードバック」が促され、脳・神経・筋系の疾患患者の機能改善が促進されるという仮説。「脳梗塞や脊髄損傷などにより自力で下肢を動かせなくても、動かす意思を微量の電気信号としてセンサーが感知できれば、HALを装着して治療を行うことで、機能改善・機能再生が期待できる」(山海氏)という。
 

写真2 労災保険適用となったドイツでの機能改善治療の様子(提供:CYBERDYNE)

 ドイツでは今年8月、脊髄損傷や脳卒中などに対するHALによる機能改善治療は、公的労災保険による保険適用となり、全額保険でカバーされることになった。1回の機能改善治療の診療報酬は500ユーロ(約6万5000円)で、週5回合計60回の治療パッケージとして提供している。「治療後に自力でトイレ移動や復職ができるようになるなど、介護負担が軽減されれば、治療の費用対効果は高い。」と山海氏は話す。今後、オーストリアやスイスでも事業を拡大する予定だ。

 一方日本では、まだ医療機器としては認可されておらず、2013年から、治験を進めている。