露出した柔らかい部位を好む

 またトコジラミは、頸部、前腕、手など就寝時に露出している、柔らかい部位を好んで吸血する。これらの部位で、紅斑や丘疹が多発している患者では、トコジラミ刺症を鑑別に加える必要がある。

 ただし、トコジラミ刺症は、吸血時に自覚症状がなく、臨床像と問診から得られた情報で、推定診断せざるを得ない。虫刺症の中では、ネコノミ刺症、イエダニ刺症が鑑別に挙がる。夏秋氏は、「皮疹が生じた部位をよく観察することが、鑑別に役立つ」と説明する(図4)。

図4 各虫刺症で皮疹が生じやすい部位(夏秋氏による)

岡皮フ科クリニックの岡恵子氏は、「ネコノミ刺症では、水疱や血疱を生じることが多い」と言う。

 トコジラミは主に露出している部位を好んで吸血し、衣類の奥までは入らないという性質を有する。一方、イエダニは衣類の奥まで入って腋の周囲や下腹部など、皮膚の柔らかい部位を選んで吸血する。イエダニはネズミによって運ばれるため、家の中にネズミが侵入した場合などに被害を受けやすい。

 一方、ネコノミは下肢に刺症を生じやすい。また、「ネコノミ刺症では、水疱や血疱を生じることが多い(写真9)」と、岡皮フ科クリニックの岡恵子氏は説明する。また岡氏は、「横になっているときに刺されれば、下肢以外にも刺症が生じることがある」と語る。

写真9 ネコノミ刺症
ネコノミ刺症では、水疱や血疱が下肢に生じることが多い(提供:岡氏)。

 さらに「ネコを飼っていなくても、公園など土があるところを歩くことでもネコノミ刺症は生じ得る」(夏秋氏)ことにも注意したい。ネコノミは土中に卵を産み、土の中で成虫となったのちに吸血するためだ。「ネコノミの被害は、素足、サンダルという下肢を露出する服装を好む女性で生じやすく、患者の大半は女性」とも夏秋氏は付け加える。

 トコジラミ刺症は、吸血時に皮膚に注入される唾液腺物質に対するアレルギー反応により生じる。トコジラミによる吸血が初めての場合は感作が成立せず、皮疹も出現しない。何度か吸血されると感作が成立し、遅延型アレルギー反応として、吸血1〜2日後に痒みを伴う紅斑や丘疹が現れる。

 ただし、「トコジラミが蔓延する宿泊施設で一晩に多数の吸血を受けた場合は、1〜2週間後に突然多数の皮疹が出現し、驚いた患者が来院することがある」と夏秋氏。これは、多数個体による初めての吸血後、1〜2週間で感作が成立し、吸血部位の皮膚内に残存する唾液腺物質に対して反応するものという。このような患者では、1〜2週間前に旅行歴があるかどうかを確認することが、診断の助けとなる。

 トコジラミは病原体を媒介しないので、痒みに対してステロイド外用薬を処方すれば対応できる。ただし、自宅で刺された場合は家屋内のトコジラミの駆除も必要となるので、きちんとした鑑別と患者指導が必要だ。