【トコジラミ刺症】
絶滅寸前といわれたが再流行

「殺虫剤抵抗性のトコジラミが全国的に蔓延している」と話す、兵庫医大の夏秋優氏。

 「この10年の間に全国的にトコジラミが蔓延するようになった」。こう語るのは、兵庫医大皮膚科准教授の夏秋優氏。

 トコジラミはシラミの一種ではなく、俗にナンキンムシ(南京虫)と呼ばれるカメムシ類の昆虫だ。昼間は室内の壁や柱の割れ目、引き出しの隙間などに潜み、夜になると生息場所から出て、就寝中のヒトから吸血する。「戦前は、いるのが当たり前だったが、有効な殺虫剤の普及により70年ごろまでには激減し、20年前には標本すら手に入らない状況だった」と夏秋氏は述懐する。

  ところが、2005年ごろから海外・国内ともに急増し、近年、ホテルなどの宿泊施設や一般住宅にも生息するようになった。

 トコジラミ蔓延の原因として最も大きいと考えられているのが、駆除に広く用いられてきたピレスロイド系殺虫剤に対する抵抗性をトコジラミが獲得したことだ。国立感染症研究所昆虫医科学部第三室室長の冨田隆史氏らが、10〜12年に収集したトコジラミを対象に行った全国調査によると、約9割のトコジラミがピレスロイド系殺虫剤に対する抵抗性遺伝子を保有していた。ピレスロイド系殺虫剤に抵抗性を示すトコジラミは一般的な燻煙型殺虫剤では十分に駆除できず、専門の駆除業者に依頼して徹底的な殺虫処置を行わなければ駆除できないのが現状だ。また、「その費用は一般住宅では10万円以上と高額」(夏秋氏)であり、駆除の難しさを物語っている。

 「これまでトコジラミ刺症を診たことがない医師が多いため、トコジラミ刺症の患者を、『原因不明の虫刺症』として加療している医師が少なくないようだ」と、夏秋氏は指摘する。現在の蔓延の現状から、今後外来でトコジラミ刺症の患者を診る機会はさらに増えそうだ。

 トコジラミ刺症では、痒みの強い浸潤性の紅斑や丘疹が生じる(写真8)。「特徴的な所見では、皮疹が数カ所並んで認められる」と夏秋氏。これは、トコジラミが吸血時に口器を1〜数回、刺し変えることによるという。

写真8 トコジラミ刺症
トコジラミ刺症で生じる浸潤性の紅斑は痒みが強い。(提供:夏秋氏)