東北大総長 里見進氏に聞く
地域医療は崩壊させない、新たな取り組みで産業育成も
 震災時、東北大病院長だった里見進氏は災害対策本部で指揮を執り、三陸沿岸部の医療機関に物資や人員を送り続けた(2011年12月12日掲載「『当病院は最後の砦、後方支援に徹した』」参照)。あれから1年9カ月。被災地の医療の立て直しや今後の東北大の役割について改めて聞いた。
東北大総長
里見進(さとみ・すすむ)
1948年生まれ。74年東北大卒。東北大病院助手、講師などを経て、95年に同大医学部教授兼第二外科長。2004年に東北大病院長。12年から現職。
写真:阿部 勝弥
 震災直後は医療提供体制が壊滅したことが引き金となって、社会全体が大混乱する可能性も考えられなくはなかった。しかし今のところ、全国から寄せられた様々な支援のおかげで、医療の崩壊は何とか防げている。ただ、今後は被災地への関心が徐々に薄れ、支援も減っていくだろう。東北大としては、そうした状況にどう対処するかを考えなければいけない。
 東北大病院は12年10月、総合診療部だった組織を改編して、新たに総合地域医療教育支援部を設置した。同部では、沿岸部の被災地にある医療機関との連携強化や人材育成を通じて地域医療の活性化を図る。被災地への支援は、震災直後から現在まで各医局が積極的に行ってきたが、今後はそれに加えて、総合地域医療教育支援部を中心として大学全体でも動いていくことになるだろう。同部の設置は「地域医療は崩壊させない」という東北大としての強い意思表明でもある。
 加えて、東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)も、地域医療の支援を行う。ToMMoでは、宮城県や岩手県の被災地などで、15万人の住民を対象に大規模コホート研究を行うとともに、生体試料やその解析情報を集積。並行して、情報ネットワークの構築を進め、医療機関が診療情報や検査情報を共有して医師不足の地域でも質の高い医療が受けられるようにする計画だ。さらに、同機構で研究に携わる医師の一部を一定期間被災地に派遣し、医療機関での診療や健診などを行ってもらう。こうした取り組みを通じて、被災地の地域医療を大学全体で支援していく。
 被災地の医療は、心意気だけで簡単に解決できる問題ではないが、しばらくはこうした体制で支えていけるのではないかと思っている。もちろん将来は、医療者の地域への定住を促進したり、多くの医師を抱えて、一定期間ずつ交代で派遣したりするシステムが必要だろう。地域全体の復興計画や復興の状況を見極めながら、それに合わせて地域医療の体制をつくっていくことが大切だ。
 医師数について言えば、東北大医学部の今年度の入学定員は、地域枠を活用した上限である125人。来年度は暫定措置として、さらに10人の増員が認められるので、東北大も入学定員を135人まで増やす予定だ。あと数年で、医学部から地域枠の最初の卒業生が出てくる。東北6県においては、従来よりも年間約200人の医師が増える計算であり、研修医の数は着実に増える。
 今後は大学の負担で研修医が海外の病院で研修する機会を設けたり、学生に被災地で地域医療を経験させたりするなど、若手医師や学生が面白い、やりがいがあると感じる仕掛けもつくっていきたい。そして東北地方に数多く研修医を集めたい。実際に地域を見てもらえば、地域医療に目覚める医師も出てくると思う。
 知を創造して産業を興したり、国や地域社会を元気にしたりするのが大学の役目。東北大では震災後、学内でアイデアを出し合って災害科学や再生可能エネルギー、地域産業の復興支援など8つの研究プロジェクトを立ち上げた。中でも、12年4月に立ち上げた災害科学国際研究所では、世界的な災害研究の拠点として、新たな広域・巨大災害に備える実践的な研究を行う。
 また、大規模コホート研究や地域医療支援を手掛けるToMMoの事業からは、新たな診断法や治療法の開発につながる成果が出ることが期待される。医療情報を共有できる情報インフラを整備すれば、それと遺伝情報を結び付けて診療に活用することも可能だ。
 こうした数々の試みから新産業が育てば、東北地方の復興の一助にもなるだろう。(談)