福島県立医大災害医療総合学習センターの熊谷敦史氏は、「医療者だけでなく行政や地域住民も巻き込んで、放射線被曝医療を広めたい」と話す。

放射線被曝医療を全国に
 原発事故の被害を被った福島県でも、福島医大が12年5月に災害医療総合学習センターを開設した。放射線被曝医療の知識を身に付けた医療者の育成のほか、立ち入り禁止区域からの避難住民を対象とした健康相談や災害医療セミナーなども手掛ける。同センター講師の熊谷敦史氏は、「原発事故は他の地域でも起きる可能性があるが、被曝医療を学ぶ場はほとんどない。全国の医療者の底上げが必要だ」と訴える。

 同センターが現在取り組むのが、福島医大の医学部5年生を対象とした2日間にわたる被曝医療の臨床実習だ。一般的な災害医療だけでなく、放射線障害のメカニズムや線量計の使い方、放射性誘発甲状腺癌などに関する講義を実施。さらに、被曝した患者が運ばれてきたことを想定し、実際に防護服を着て救急対応や医療チームでの対処法を演習する。外部の医師や看護師を対象とし、被災地も訪問する同様のセミナーもこれまでに2回行った。今夏には米国コロンビア大の医学生など3人が来日して実習を受けた。

福島県立医大災害医療総合学習センターでの演習風景。被曝した患者が運び込まれたケースを想定して進められる。

 これ以外に同センターが注力するのが、立ち入り禁止区域の福島県浪江町など双葉郡8町村と飯館村から県内各地に避難している住民を対象とした健康相談。各自治体の健診に併設する形で実施している。低線量被曝に対する住民の不安への対処や甲状腺検診の結果の読み方の指導のほか、生活習慣病や日常生活の悩みも聞くという。事前研修を受けた全国の医師や医学生、看護師60人弱がこれまでに参加し、300人以上の相談を受けた。

 「被災者の悩みの解消だけでなく、医療者の災害医療教育の一環にもなる」と熊谷氏。今後は、前述の実習や健康相談に参加した医療者をよろず相談員として組織化し、健康相談をさらに充実させる考えだ。

中核病院の患者情報を一元化
 一方、岩手医大は来年4月、災害医療体制モデルの確立や人材育成などを目的とした災害時地域医療支援教育センターを開設する。現在、災害医学講座を設置し、研修室やシミュレーション室、食料の備蓄倉庫を備えた新棟を校内に建設中。同センターの目玉の一つが、災害医療情報連携システムの構築だ。

 県や同大は震災発生当初、情報インフラの寸断により被災地の医療提供体制の状況をしばらく把握できなかった。多くの中核病院が津波の被害に遭い診療情報を失ったため、被災者の診療にも支障が生じた。

 こうした反省から、県立の釜石病院や大船渡病院(489床)など沿岸部の中核病院と同大をネットワークでつなぎ、各病院の全患者の診療情報を一元管理できる体制を整備する。電子カルテ情報をベースとし、各病院の医師が入力した診療情報のうち必要な情報を共有する仕組みだ。管理する患者情報は20万〜30万人分に上るという。

「中核病院の患者の診療情報を一元管理し、平常時の医療連携にも役立てたい」と語る岩手医大の小林誠一郎氏(右)と遠藤重厚氏。

 同大医学部長の小林誠一郎氏は、「当大学と各病院間の紹介患者のフォローアップが可能になるので、災害時はもちろん、平常時にも役立つはずだ」と期待を寄せる。

 さらに、遠隔医療システムも整備・拡充する。「同大の医師がテレビ端末を使って各病院のカンファレンスに参加し、高度医療の最新情報を伝えていくといった運用を想定している」(センター長の遠藤重厚氏)。同大の医師が遠隔で画像診断も行う。このほか内視鏡や穿刺、胸腔ドレナージ、救急処置のシミュレーション機器を導入。希望すればコメディカルも研修できるようにする。

 同大は現在、今回の震災発生時の対応に関する問題点を検証中だ。「様々な切り口から検証し、今後の震災対応に生かしていきたい」と小林氏は話している。