震災をきっかけに、被災各県では新しい研究事業や災害医療の教育機関の立ち上げが相次いでいる。3世代コホート研究など世界的にも前例のない取り組みも進む。東北が先端医療の発信地に生まれ変わろうとしている。


 震災後、東北大が打ち出した東北メディカル・メガバンク事業。関係者は、先端研究と被災地への医療支援を同時に進め、将来の新薬開発などにつなげる青写真を描く。

中核は大規模3世代コホート
 同事業には11年度の補正予算と12年度予算で約200億円が付き、10年間で合計500億円が投じられる見込みだ。事業の柱となるのが、宮城県と岩手県の住民約15万人を対象としたコホート研究(表2)。8万人を追跡する住民コホートに加え、7万人を調査する3世代コホートを行う。住民コホートは沿岸部の被災地での特定健診などを通じて実施。3世代コホートは県全域の分娩施設に協力を依頼し、新生児から両親、祖父母まで3世代を追跡する。

表2 国内の主なコホート研究(文部科学省の資料を編集部で一部改変)
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 研究では、生体試料に加えて血液検査などの結果を蓄積。質問票を配布して食生活も調べるなど、環境要因の調査も行う。生体試料を使い、一塩基多型(SNP)の解析や全ゲノム解析を実施。提供者の医療情報や検査結果などと結び付けてデータベースにし、創薬研究に活用できるバイオバンクを構築する。

「3世代コホート研究は、沿岸部の被災地の特徴を生かした研究だと考えている」と話す東北メディカル・メガバンク機構の八重樫伸生氏。

 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)副機構長の八重樫伸生氏は、「3世代にわたって大規模調査するコホート研究は世界でも初めて。特に沿岸部の被災地は3世代同居の世帯が多く、研究に向いている」と話す。子どもの世代で初めて発症した疾患などがあれば、3世代のゲノム情報や医療情報、環境要因を比較することで疾患原因などに迫れる可能性もある。自閉症やアトピー性皮膚炎、喘息といった個別の疾患の発症と、ゲノム情報、環境要因などとの関係の多変量解析も予定しており、新しい診断法や治療法の開発につなげたい考えだ。

先端研究で人材呼び込み
 ToMMoが、コホート研究を呼び水に進めるのが、医師不足に悩む被災地の医療機関への医師派遣や、医療機関をネットワークで結び、患者の診療情報を一元管理するシステムづくりだ。ToMMoは所属する医師がコホート研究をする傍ら、被災地の医療支援も行う仕組みを設け、30〜40歳代の医師10人を確保。3人が1チームとなり、4カ月ずつ被災地の医療機関で診療し、残りの8カ月は東北大でコホート研究に従事する。10月には、その第一陣として公立志津川病院、公立南三陸診療所、女川町地域医療センターに医師4人を派遣した。ToMMo機構長の山本雅之氏は「3年以内に30人体制とし、疲弊した沿岸部の地域医療支援に取り組みたい」と話す。

 さらに電子カルテの様式を統一し、複数の医療機関で診療情報を共有する取り組みも始まる。医療機関をネットワークで結び、診療情報を共有すれば、遠隔診療の基盤にもなる。ToMMoは11年11月に設立されたみやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会と共同で、宮城県内の医療機関や調剤薬局、介護施設などで診療情報の形式を統一、共有化することを目指す。共有化した診療情報はコホート研究にも役立てる。

広域災害の国際研究拠点も
 震災後、東北メディカル・メガバンク事業に加えて、東北大が推し進めるのが災害研究だ。今年4月には、災害科学国際研究所を設置した。同研究所災害産婦人科学分野教授の伊藤潔氏は「従来、東北大の災害科学は地震学が中心だったが、文理を融合して広域災害への対応を国際レベルで研究する」と話す。

 同研究所には、防災・減災技術の研究部門や歴史的視点で災害のサイクルを研究する部門などに加え、災害医学研究部門も設置された。今回の震災ではDMATをはじめとする医療支援チームが一定の役割を果たし、地域で幅広い救援活動を展開した一方で、迅速に対応できなかった医療者も少なくなかった。同研究所災害医療国際協力学分野教授の江川新一氏は「DMATなどの訓練を受けていない一般の医療者でも、災害時にある程度対応できるようにしていきたい」と話している。