福島県南相馬市では福島第1原子力発電所の事故により、大半の病院がまだ正常に戻っていない(2011年12月12日掲載「復興へ道険し、南相馬の医療」参照)。一方で、放射線被曝を避けて若い世代の多くが市外に避難・移住したため、震災前の11年2月には25.9%(住民基本台帳ベース)だった全住民に占める65歳以上の割合は、震災後の12年9月には32.6%(市内在住者の実数ベース)に跳ね上がった。結果、医療・介護の必要な高齢者が自宅や仮設住宅での生活を強いられる例が増えているにもかかわらず、それを支えるべき家族の介護力は低下している事態に陥っている。

「もともとの大家族が離れ離れになり介護力が低下し、在宅医療が不可欠となっている」と語る南相馬市立総合病院の原澤慶太郎氏(中央)。

 こうした状況に対応するため、南相馬市立総合病院(230床)は12年4月、在宅診療部を新設。同市にはそれまで在宅医療を手掛ける医療機関がほとんどなかった。同病院の外科医の根本剛氏が部長に就き、昨年11月に千葉県鴨川市の亀田総合病院(925床)から出向した原澤慶太郎氏を中心として医師5人が仮設住宅などを精力的に回っている。現在の在宅患者数は40人ほどだ。

 原澤氏は、「出向してすぐに感染症予防対策や地域の問題点の洗い出しを行ったが、その中で、家族が離散して介護する人がいなくなってしまった高齢者が多いことが分かった。仮設住宅の生活でストレスがたまったり運動不足に陥り、症状が悪化する人も少なくない」と語る。

不足する看護師、介護従事者
 ただ、「在宅診療部は本来ならば80〜100人の在宅患者を診療できる体制だが、現在は40人ほどに抑えている」と同氏。背景には訪問看護や訪問介護の人材不足がある。

 在宅患者の生活は、在宅医療だけでは支えることができない。ところが、若い世代の市外への避難が相次いだことで、看護師や介護従事者の人数が激減し、今でもその状況は改善されていない。

 そこで、原澤氏は住民自身による健康管理や疾病予防を進めようと、オムロンヘルスケアと共同で血圧分析サービスを開発。自宅で血圧を測定すると自動的に共有サーバーに保存されて通院先で閲覧できるようにしたほか、異常値だったり測定記録が3日間ない患者には保健センターなどから連絡する体制を整えた。さらに、仮設住宅の高齢者に生きがいを持って生活してもらうために健康教室を開いたり、仮設住宅内の折り紙サークルで高齢者が作った作品を販売し、その収益をNPO法人に寄付して地元の子どもたちの支援活動に当ててもらう仕組みもつくった。

 一方で南相馬市立総合病院は亀田総合病院の支援の下、基幹型臨床研修病院に指定され、13年度から初期研修医1人を受け入れることになった。研修医の確保は、南相馬市立総合病院の長年の夢でもあった。「被災者の診療を通じて地域医療を学んでもらうほか、亀田総合病院でも研修する予定だ」(原澤氏)。

 まだ震災の影響が残る同市だが、復興へ向けて着実に歩みを進めているのは確かだ。

入居者の安心に配慮した仮設住宅、今後の町づくりのモデルにも
 震災後にできた仮設住宅は応急措置の感が否めず、入居者のコミュニティーの活性化や医療・介護拠点へのアクセスのしやすさなどに配慮されたケースは少ない。こうした仮設住宅と異なる特徴を持つのが、釜石市の平田地区にある「コミュニティケア型仮設住宅」だ。
 計240戸を、介護や見守りが必要な高齢者などが住む「ケアゾーン」(60戸)、一般家族や健常者が入居する「一般ゾーン」(170戸)、乳幼児のいる家族向けの「子育てゾーン」(10戸)に分け、敷地の中心には診療所や介護事業所、薬局、店舗を配置。さらに建物間にウッドデッキを敷いてバリアフリー化を徹底したほか、住民同士の交流を活発にするため各戸の玄関を向かい合わせにした。
 この仮設住宅をプロデュースしたのは、東大高齢社会総合研究機構教授の辻哲夫氏ら(2011年7月29日掲載「仮設住宅の整備段階から、高齢者が安住できる町づくりを」参照)。国土交通省や厚生労働省、中小企業庁の補助金を活用し、11年8月にオープンした。同機構特任研究員の後藤純氏は、「震災で少子高齢化が顕著になる中、入居者が生きがいや元の生活を取り戻せる仮設の『まち』が必要だと考えた」と話す。
 住宅内の診療所の運営は、慢性期を担う釜石のぞみ病院(154床)の医師らが担当し、週3日の外来診療や不定期での在宅診療を実施。介護事業所はジャパンケアサービス(東京都豊島区)が運営し、通所介護や見守りサービスを提供している。
 実は、これらの医療・介護拠点は仮設住宅の設置から約2カ月遅れで開設された。それまでは体調を崩した住民が比較的軽症でも救急車を呼ぶ例が目立ち、救急搬送件数は月7、8件あった。「それが、医療・介護拠点ができて以降は、救急搬送が月1、2件に減った」と、敷地内の診療所で診察に当たる釜石のぞみ病院の高橋昌克氏(同市保健福祉部付部長[地域医療担当]を兼務)は言う。
 さらに、釜石市では市民の心理ケアを充実させているが、「この仮設住宅は入居者同士の交流を促す構造になっているほか、医師や介護従事者が住宅内を見回っているためか、他の地区より心理カウンセリングが必要な人が少ない」と高橋氏は語る。
 同市では現在、沿岸部の具体的な町づくりを検討中。その際、「コミュニティケア型仮設住宅」をモデルに住宅整備が進む可能性もあるという。
敷地の中心には診療所や介護事業所、店舗などが設置されている(左)。バリアフリーのウッドデッキを敷いたほか、各住宅の入口は対面にしてコミュニケーションの活発化を狙った(右)。
釜石市の「コミュニティケア型仮設住宅」の見取り図。(提供:東大高齢社会総合研究機構)