震災発生から1年9カ月がたち、被災地では急速な高齢化で生じた医療提供体制のひずみを、総合診療や在宅医療の整備で解消しようという取り組みが始まっている。一方で、災害医療に通じた医療者の養成のほか、ゲノム情報を集積して創薬研究につなげたり、患者の診療情報を一元管理し災害時だけでなく通常の診療時にも役立てようとする、新たな事業も立ち上がりつつある。

 震災は被災地の従来の人口構成を壊し、高齢化率を一気に引き上げた。それに伴い、様々な慢性疾患を抱える高齢者の医療・介護ニーズが増大。被災地の医療機関は対応策として、総合医の育成や在宅医療の整備に力を注ぐ。


 宮城県では、総合医や家庭医を育てる動きが活発化している(図1)。日本プライマリ・ケア連合学会認定の後期研修プログラムを実施する医療機関は、震災前には1施設だけだった。それが震災後、新たに1施設が実施施設に加わり、現在さらに2施設が認定を申請中だ。背景には、地域医療を志す若手医師を集めて医師不足を補いながら、必要な総合医や家庭医に育てて県内に残ってもらおうという狙いがある。

図1 宮城県と岩手県における総合医・家庭医の主な養成プログラム
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地域保健も視野に医師育成
 津波で全壊した石巻市立病院(被災前206床)の仮設診療所である開成仮診療所は、2013年度から後期研修医を受け入れるべく、同学会のプログラム認定を申請中だ。

 2次医療機関であった同病院は震災前、救急患者の受け入れや高度な消化器外科手術などを手掛けていた。しかし震災後、診療が継続できなくなり、院長の伊勢秀雄氏を除く全医師が退職した。計画中の新病院は、3次医療機関の石巻赤十字病院(452床)との機能分化を進め、総合診療や在宅医療などに一般外科を加えた1.5次の医療機関への衣替えが決まっている。「再建に向け、複数疾患を抱える高齢者を診られる総合医を集めたい」と伊勢氏は語る。

石巻市立病院開成仮診療所の長純一氏は「国際保健なども組み入れたプログラムを作って研修医を呼び込みたい」と話す。

 総合医の育成や確保を任されたのが、12年5月に開成仮診療所所長として赴任した長純一氏だ。佐久総合病院(長野県佐久市、821床)にいた長氏は、地域医療の経験が豊富で、国際的な保健活動にも明るい。「3年間で日本の地域医療を学び、その後1年間は海外で保健活動に携わる研修を考えている」と話す。

 同氏が重視しているのが、地域の保健活動だ。現在、診療の傍ら地域の保健師や社会福祉協議会などとネットワークをつくり、アルコール依存に陥った住民の把握や健康づくりのサポートなどに努める。「地域医療の一環として、プライマリヘルスケアも手掛けられる医師を育てたい」と長氏は語る。

 気仙沼市立本吉病院(38床)も同学会の後期研修プログラムの認定を申請中。認められれば、13年度から後期研修医を受け入れる。同病院は、約1万人が暮らす気仙沼市本吉町唯一の医療機関。震災後は前院長と前副院長が相次いで退職し、医師不在の状況が続いていた。

 しかし11年10月、山形県で家庭医の研修プログラムを受けた経験を持ち、同病院の医療支援にも携わっていた川島実氏が院長に就任(2012年1月19日掲載「町民全体の家庭医を目指す」参照)。12年4月には島根県で地域医療に従事していた齋藤稔哲氏が副院長に就いた。

 「本吉町はもともと医療過疎の地域。安定した医療基盤をつくるためにも、家庭医育成が欠かせない」と齊藤氏は話す。研修では、一関市国民健康保険藤沢病院(岩手県、54床)や開成仮診療所、公立志津川病院(宮城県南三陸町、38床)とも連携。被災地での診療を通じて知識や技能を身に付けてもらう予定だ。