釜石ファミリークリニック(岩手県釜石市)院長
寺田 尚弘氏

 震災発生直後、釜石医師会から災害対策本部長に任命され、当医療圏の調整役を務めました。全国から釜石に足を運んでくださった医療支援班の方々の献身的な活動のおかげで、この難局を乗り切ることができました。とても感謝しています。

 また、当医師会は日ごろから行政や地域の歯科医師会、薬剤師会、介護事業所などと密に連携して良好な関係を築いてきました。今回の震災ではこの連携がうまく機能し、しっかり役割分担することで効果的に被災者をケアすることができたと思います。

 私の今後の役割は、震災発生以降の出来事をきちんとまとめておくことだと考えています。災害対策本部の医療班を運営してみて感じたこと、うまくいったこと、いかなかったことなどを記録に残しておくことが今後の災害対策に役立つとすれば、全国の医療従事者の方からのご支援に対するお礼の一部となるかもしれません。

 一方で、釜石市と大槌町からなる釜石医療圏の医療提供体制はだいぶ元に戻りました。

 入院機能の大幅な縮小や休止を余儀なくされた県立釜石病院(一般272床)と釜石のぞみ病院(一般52床、療養102床)は全床再開しました。被災した診療所開業医の方々も、大半が仮設施設などで診療を開始しています。県立大槌病院(一般121床)はまだ入院機能を休止していますが、急性期から慢性期、在宅までの流れが元に戻りつつあります。

 当クリニックの在宅医療を受けていた患者さんは被災により、震災前の約320人から一時は200人ほどになりました。ですが、整備が進む仮設住宅を含めて徐々に自宅への復帰が可能な状況となり、現在は250人程度まで回復してきています。

 ただ、課題が多く残されていることも確かです。

 その1つが家族介護力の低下です。震災で家族を失った場合、介護力は落ちますが、それだけではなく、住居や仕事といった生活基盤を喪失した場合も家族の介護力に大きな影響を与えます。医療・介護サービスの提供体制がいくら整備されていても、家族の介護力がある程度なければ、患者さんは在宅療養を選択したり、継続することは困難です。

 もう1つは、「家」や「地域(コミュニティー)」の復興についてです。「家」や「コミュニティー」は、自宅への復帰を願う患者さんのモチベーションの源泉となります。

釜石医療圏では家屋が流されて生活基盤が崩壊し、家族の介護力が低下している世帯が多い。写真は大槌町内。

 今回の震災では、家と共に、人と人とのつながりを含めたコミュニティーも津波によって流されてしまいました。形として失ったものも膨大ですが、精神的なバックグラウンドを失ったことは、特に高齢者にとって行き場のない喪失感となっています。今後地域全体で、どのようにして患者さんの在宅療養への希望を支えていけるかが課題となっています。

 再び安定した在宅療養環境が戻るには生活基盤の再建が進み、豊かなコミュニティーが再生されることが大事だと感じています。

 今、被災地では「在宅」の意味の本質が問い直されています。その中でどう医療を提供していくべきか、いま一度見つめ直したいと思っています。(談)