1300人以上の死者・行方不明者を出した岩手県釜石市(人口4万人弱)。同じ釜石医療圏にあり、人口約1万5000人の大槌町に至っては町全体が壊滅状態に陥り、死者・行方不明者は1700人余りに上った。避難者数も2市町合わせて、最大で約9000人(避難所数は約80カ所)に達した。

釜石医療圏では仮設住宅が徐々に整備され、避難者の入居が始まっている。

 同医療圏には、多いときで15〜16チームの医療支援チームが滞在。各チームが特定の地域を担当し、避難所を巡回して診療に当たった。震災の発生直後から釜石医師会災害対策本部長として医療支援チームの配置調整役などを担ってきた釜石ファミリークリニック院長の寺田尚弘氏は、「避難者の間でインフルエンザや感染性胃腸炎などが散発したケースが見られたが、多くの医療支援チームのおかげで蔓延せずに済んだ」と感謝の意を表す。

開業医の診療再開にめど
 そんな医療支援チームも、6月19日をもって全て撤退した。依然として約50カ所の避難所、約1300人の避難者がいるが、「そろそろ地元の医療機関が患者を引き継ぐ時期だ」(寺田氏)と判断したわけだ。

釜石医師会災害対策本部長の寺田尚弘氏は「在宅医療中心の元の形に必ず戻せる」と語る。

 この決断の背景には、地元開業医の診療再開にある程度めどが立ってきたことがある。釜石医療圏では震災で18カ所の診療所のうち8カ所が診療休止に追い込まれた。このうち1カ所は医師が亡くなったが、5カ所は自身の仮設診療所の開設が決まっていたり、岩手県立大槌病院の仮設診療所で既に診療を再開。残り2カ所も、釜石市が新日鉄エンジニアリングから建物の寄贈を受けて10月に開設する予定の医療モールで開業することが決定している。さらに鉄道やバスなどの交通機関が復旧し、避難者が医療機関に通う手段が確保されたほか、仮設住宅が7〜8割整備されたことも寄与した。

 寺田氏は、震災発生3カ月がたった今、地元の医療機関が患者を全て引き継ぐ意義をこう語る。

 「医療支援チームが避難所で提供する医療は薬剤処方が主で、血液検査やX線検査などはできない。患者の症状が日々変化している中、何カ月間も検査をせず処方のみ続ければ、患者だけでなく医療支援チームの医師たちにも不安が募る」

 医療支援が一段落した今後は、リハビリや心のケアを充実させていく方針だ。

在宅患者へのケアが課題
 病院も復旧の見通しが立ってきた。入院病棟が古く倒壊の恐れが生じ、一般病床272床中246床を閉鎖せざるを得なくなった岩手県立釜石病院は、当初1年かけて行う予定だった耐震補強工事を急ピッチで進め、8月には再開する予定だ。

 院長の遠藤秀彦氏は「現在、平均在院日数は平常時の15〜16日の約3分の1程度に当たる6日。介護施設や内陸の病院などへ無理に退院してもらっているのが現状だが、病床が回復すればそれも改善する」と話す。慢性期医療を担い、震災で一時閉鎖した釜石のぞみ病院(療養154床)も入院患者を徐々に受け入れ始めた。県立大槌病院は5月末に仮設診療所を開設。入院機能は再開していないが、大槌町の外来患者を診る体制が整った。

 現在の課題は、在宅患者へのケアだ。釜石医師会会長の小泉嘉明氏は、「被災して家や仕事を失い、介護に時間を費やせなくなっている家族が少なくなく、その分、要介護度が上がる在宅患者が増えている」と指摘する。

8月の全床再開に向け、耐震補強工事を急ピッチで進めている岩手県立釜石病院。

 釜石医療圏では、数年前から在宅医療や介護の充実に力を注いできた経緯がある。それに合わせて5つある病院の機能分担も図ってきた。3カ所ある在宅療養支援診療所は今回の震災で被災しなかったため、在宅医療や介護の提供体制は十分整っている。ただし、医師がこれまで以上にケアマネジャーなどと密に連携を取り、患者や家族への震災の影響を十分加味しながら在宅医療・介護を提供していかなければならなくなっているという。

 「少しでも多くの患者が以前と同じ在宅生活に戻れるよう、短期入所生活介護や通所リハビリテーションといった介護サービスも充実させていきたい」と小泉氏は話している。