宮城県気仙沼市では、病医院の再開や避難所の閉鎖、交通機関の復旧が進み、6月末に医療支援チームが撤退した。

 同市は、津波と大規模な火災で港を中心に大きな被害を受けた。人口約7万2000人に対して死者・行方不明者数は約1500人。約1万戸の建築物が全壊または半壊し、一時は約2万人が約100カ所の避難所で避難生活を送っていた。

 市内にある5カ所の病院のうち3カ所と、29カ所の診療所のうち19カ所は、建物の倒壊や浸水などで診療不能に陥った。幸い、同市の基幹病院である気仙沼市立病院(一般451床)は高台にあったため被災を免れ、診療を継続できたが、市全体の診療機能は大幅に低下。多いときには、30の医療支援チームが全国から駆け付け、大規模な避難所に救護所を設けて24時間体制で避難者の医療に当たったり、小規模な避難所などを毎日巡回診療したりした。

取り残される在宅患者
 しかし6月までに、診療を休止していた2カ所の病院と15カ所の診療所が診療を再開。「大半が仮設診療所などを新設し、診療機能は震災前の70%程度にまで復旧した」(気仙沼市医師会の担当者)。仮設住宅への入居も始まり、避難者は6月半ばで約2500人、避難所も約50カ所に減少。市内には定期バスのほか、医療機関まで患者を届ける送迎車を市が手配し、交通手段がなく、医療機関を受診できない避難者も少なくなった。7月以降は、避難所や仮設住宅で生活する被災者も、地元の病院や診療所の外来を受診することになる。

気仙沼在宅支援プロジェクトは、7月まで医療支援チームが支援に入る見込み。

 とはいえ、課題も残る。震災前に比べて大幅に増加した在宅患者の受け皿が不足しているのだ。震災前、気仙沼湾に浮かぶ大島を除く市内では、5カ所の診療所が全体で50人弱の訪問診療を手掛けていたが、人口の割に在宅患者数は極めて少なかった。しかし震災後、被災を免れて自宅で動けずにADLが低下したり、栄養状態が悪化して褥瘡ができたりした高齢患者が急増。気仙沼市立病院の医師や従来から訪問診療を行っていた地元開業医、医療支援に訪れた医師らが協力して、急きょ気仙沼在宅支援プロジェクトが立ち上げられた(5月9日掲載の「【宮城県気仙沼市】在宅医療の取り組み始まる」を参照)。

 地元の保健師や医療支援チームなどが市内を回って在宅患者を掘り起こした。同プロジェクトではこれまで延べ300人ほどに訪問診療を提供してきた。手厚い診療で回復した患者もいるほか、状態が落ち着いた患者は地元の診療所や訪問看護ステーションに引き継ぎ、同プロジェクトが常時フォローする在宅患者数は、ピーク時の約80人から、現在は三十数人に減少している。

 津波で医院を流されながら、同プロジェクトに関わってきた村岡外科クリニック院長の村岡正朗氏は、4月末から新たな場所に仮の医院を構え、訪問診療を再開。現在、30人ほどの在宅患者を診ている。村岡氏は「せっかく在宅医療が広まり始めたので、やせ我慢してでも残りの患者を引き継ぎたい」と話すものの、他の診療所は外来診療で手いっぱいの状況だ。村岡氏自身も年内にも診療所を新設し、外来診療を再開する予定。同プロジェクトが掘り起こした患者を、全て地元で引き継げるかどうかは不透明だ。

気仙沼在宅支援プロジェクトの立ち上げに関わった気仙沼市立病院の横山成邦氏、村岡外科クリニックの村岡正朗氏、たんぽぽクリニックの永井康徳氏(写真左から)。

 同プロジェクトでは7月末まで医療支援チームを現地に送る準備を整えているが、いつまで支援を続けるかは未定。同プロジェクトの立ち上げに携わったたんぽぽクリニック(愛媛県松山市)理事長の永井康徳氏は、「受け皿さえあれば、在宅患者をそのまま地元の医療機関に引き継いでもらいたいのだが」と漏らす。

 慢性期病床や介護施設が不足していることも課題になっている。元々市内には療養病床がなかった。その上、2カ所の老人保健施設と1カ所の特別養護老人ホームが被災。急性期病院に急性期を過ぎた患者が長期間入院すれば、病院の本来の機能に影響が及ぶことが懸念される。だからといって在宅医療在宅介護につなごうにも、前述のように引受先は多くない。

2010年に発足した気仙沼市立病院地域医療連携室で退院調整に当たる横田憲一氏。

 震災前、気仙沼市立病院で退院調整が必要だった患者は常時35人程度だったが、震災後は60人前後に増加。退院調整にかかる期間も延びる傾向にあるという。同病院副院長で、昨年同病院に発足した地域医療連携室長も務める横田憲一氏は「帰る家を失ったり、家族が亡くなったりした患者もおり、震災後は退院調整が難しい患者が増えている」と打ち明ける。

 地域医療連携室は現在、市外の介護施設も含めて退院先を探すなど、様々な対策を講じている。横田氏は、「長期的には地域に在宅医療や在宅介護などを根付かせて、病院は急性期に専念できるような機能分担を目指したい」と話す。