宮古市街から10km北部にある田老地区は地域全体が壊滅状態に追い込まれた。

 震災直後、新聞やテレビでいち早く被害が報道された岩手県宮古市。このため、他の被災地より大きな打撃を受けた印象が強い。しかし、これまで紹介した4エリアに比べ、同市の医療提供体制の復旧は比較的順調に進んでいるようだ。

 4カ所の病院は既に通常診療を開始。基幹病院の県立宮古病院に至っては、高台にあるため被災を免れ、初期から救急患者を受け入れられたほか、入院機能も保たれた。

 診療所については、被災して診療体制の縮小を余儀なくされたケースがあるものの、4月中旬時点で診療を休止しているのは37カ所のうち4カ所にとどまる(岩手県調べ)。診療休止の理由は、2カ所が診療所建物の全壊、2カ所が震災を機に医院を閉鎖する意思を表明しているところだ。ただし、このうち医師2人は介護施設などで診療を続けている。

医師会が夜間の巡回診療
 「しかし最初の1週間は、やはり大変だった」。前市長で、熊坂内科医院を運営する医療法人双熊会理事長の熊坂義裕氏は言う。

 他の地域より被害が少なかったとはいえ、人口約6万人のうち死者・行方不明者は約1100人、避難者は4000人以上に上った。これに電気や水道などのライフラインの断絶が追い打ちをかけた。

熊坂内科医院の熊坂義裕氏は震災後の1カ月間、休まず外来患者を受け続けた。

 震災翌日の3月12日から診療を始めた熊坂氏の医院には、津波に自宅を流されて薬を失った被災者などが数多く来院。同医院は震災後、1日も休まず診療を続け、4月8日までに延べ2838人の外来患者を診察した。同医院は院内処方だったため薬のストックは十分あったが、他院では処方できなかったところも少なくなかったようだ。

 2週間後にはライフラインも復旧し、全国から派遣された医療支援チームの援助もあり、安定して医療を提供できるようになった。地域のかかりつけの診療所の外来に通院し始めた避難所の避難者も増えているという。

 宮古医師会の活動も活発化。医師2人一組で、避難所の夜間巡回診療を3月22日から開始。主に被災を免れた開業医が担当し、18時すぎから2時間ほど実施している。

さらなる医師不足の心配
 だが、懸念も残る。宮古市は元々、医師不足に悩まされてきた地域。06年時点の宮古医療圏の人口10万人当たり医師数は121.4人で、全国平均の217.5人、岩手県平均の186.8人を大きく下回る。被災した診療所が他地域より少なかったとはいえ、今回の震災は医師不足に拍車をかけることになる。

 さらに今後、体力の低下が進み寝たきり状態などになる在宅患者が増加すれば、在宅医療のニーズが高まる。しかし医師数が少ない現状では、十分なサービスの提供が困難な状態に陥る可能性もある。加えて、4月中旬時点で42カ所ある避難所の統合が思うように進まなければ、全国から派遣された医療支援チームが撤退した後、地域の医師には大きな負荷がかかる。

 「とにかく今いる医師で頑張るしかない」と熊坂氏。行政には、医師不足解消を強く求めていく考えだ。