在宅被災者のケアに軸足移す
 4月14日時点の避難所の数は62カ所。他の被災地と同様、震災直後からDMATなどの医療支援チームが数多く派遣されている。

 当初は各チームの配置を調整する人物がいなかったため混乱が生じたが、釜石ファミリークリニック院長の寺田尚弘氏が災害対策本部長に就任して以降は、効率よく医療を提供できるようになった。医療支援チームの援助により、避難所での医療提供体制はだいぶ落ち着いてきており、新規の支援チーム受け入れは制限している状態だという。

釜石の災害医療対策本部では毎日ミーティングを開催、避難所の状況を共有する(右の立っている人物が本部長の寺田尚弘氏)。

 「今問題になっているのは、自宅が流されずに助かった“在宅被災者”だ」と寺田氏は話す。在宅被災者の状況は災害対策本部で把握しづらく、医療が必要な状態でもなかなか提供できないケースが多い。実際、同市ではこれまで、避難所に相談を寄せてきた在宅患者しか把握できていなかった。

 そこで、これからは医療提供の軸足を被災地周辺の住宅に移していくという。市の職員などが地域の各家を訪問して状況の把握に努め、医療支援チームに診療してもらう体制を徐々に構築していく。

 このほか問題になってきているのが、被災者のメンタル面とADLの低下。寺田氏は「被災地では介護予防や心のケアが大切になってきており、先見性のある医療支援チームはリハビリを専門とする医師をメンバーに加えてきてくれたりする。とてもありがたい」と語る。

耐震補強工事を急ピッチで
 ただ、他の被災地と同様、釜石市でも、医療支援チームが撤退した後の医療提供体制の構築が大きな課題となっている。

 同市では、避難所に避難している人のほか、内陸の病院に一時入院している在宅患者が少なくない。以前と同様の在宅医療を提供できる体制は維持できているものの、今後、こうした患者がADLを悪化させて退院してくれば、在宅で診続けるのは難しくなる。また、仮設住宅の建設が思うように進まなければ、退院しても避難所に戻らなければならず、ADLの低下やより一層の症状悪化も懸念される。

 県立釜石病院の入院機能が復旧していないのも、在宅医療を再構築する際のネックとなる。急性増悪した在宅患者が一時的に入院して治療を受けられる場がないため、在宅生活の継続が難しいからだ。加えて、慢性期の患者を受け入れる後方病院だった釜石のぞみ病院の機能がストップしていることも、在宅医療の展開を阻んでいる。

岩手県立釜石病院の遠藤秀彦氏は「老朽化した病院の建物を早急に改修し、基幹病院としての役目を果たしたい」と語る。

 県立釜石病院院長の遠藤秀彦氏は、「当病院の喫緊の課題は、1日も早く入院患者を受け入れられるようにすることだ」と話す。

 同病院は元々、今年度1年かけて古い病棟の耐震補強工事を実施する予定だった。それを3カ月程度で完成させようと現在、行政や業者が検討を進めている。「派遣されている医療支援チームの滞在限度はおそらくあと3カ月程度」(小泉氏)との算段が背景にある。

 同市はこのほか、在宅患者を介護する家族の負担を減らすため、通所介護やショートステイなどの介護サービスの整備も進めたい考えだ。

 釜石市の医療機能は厳しい状況に置かれている。だが、それに反して、医師たちの姿勢は前向きだ。

 「必ずや在宅医療中心の医療提供体制を取り戻したい」。釜石医師会長の小泉氏は、震災後の惨状を跳ね返すように力強く語った。