その一つが避難者や避難所のアセスメントだ。震災から数日がたち、市内の惨状が明らかになるにつれ、市役所が避難所の状況を把握していない実態が分かってきたのだ。石巻市、東松島市、女川町にある避難所は、震災直後には300カ所以上。避難所の状況によって、医療ニーズは大きく変わる。それまでも、日本赤十字社の救護班などが避難所を巡回診療していたが、産科や小児科、歯科などを含めた避難者の医療ニーズから避難所の衛生環境やライフラインの復旧状況まで、網羅的に把握する体制は整っていなかった。

 特に石巻市は05年4月に周辺の6町と合併して広域化していた。震災直後から行政は、避難者の食料確保など必要最低限の業務をこなすのに手一杯だった。そこで石井氏らは震災6日後にアセスメントシートによる避難所の評価を開始。医療支援チームが毎日避難所を評価する体制を始動させた。それを基に、水道の復旧などの衛生環境の改善を市に要望したりした。

 医療支援チームの取りまとめにも駆け回った。避難所では、各都道府県や各大学などからばらばらに派遣された支援チームが、現地でバッティングする問題も起きており、支援体制を一括管理する必要があった。さらに、避難生活は長引くことが予想され、車を津波で失った避難者には医療機関に通う交通手段もない。

 そして震災から10日ほどたち、市内の診療所が徐々に再開しても、避難所の医療ニーズや石巻赤十字病院の患者数は目に見えては減らなかった(前ページ図1)。石井氏は、「長期的に大規模な医療支援が必要になると感じた。東北大病院の里見病院長のアドバイスも頂き、医療支援チームを一括して長期的に管理できるエリア・ライン制の導入を決めた」と話す。

 エリア・ライン制とは、避難所の数などを勘案して石巻市周辺を14の“エリア”に分割、長期的に支援可能な医療支援チームを各エリアに置いて幹事役として運営を一任するというもの。1カ月以上の支援を表明している医療支援チームを“ライン”と呼び、避難所などの状況に応じて各幹事役の下に必要な数のラインを割り当てて、長期にわたって安定した医療支援を行ってもらう。各エリアの運営を幹事役に任せられるようになった石井氏は、診療所再開の状況や避難所の統廃合に合わせて、毎日ライン数を調整している。「閉鎖される避難所も出てきて全体のライン数は徐々に減っているが、医療ニーズは依然高く、活動そのものはまだ継続する必要がある」と石井氏は話す。

行き場失う要介護の避難者
 避難所の避難者に必要な医療を提供する体制は整ってきた。それと前後する形で問題が顕在化してきたのが、長期療養や訪問診療が必要な被災者への対応だ。

石巻市にある、要介護の避難者などを収容している「遊学館」のアリーナ。夕食の後、看護師が薬剤を配っていた。

 廃用症候群に陥ったり、不穏や徘徊などが認められる高齢の避難者は、避難所で他の避難者と共同で生活するのが難しく、震災直後から特定の避難所に集められた。

 郊外の丘の上に立つ市の多目的施設「遊学館」は、そうした避難所の一つ。館内のアリーナには100人を超える要介護者が集められ、石巻市立病院の看護師などが24時間体制で対応する。基礎疾患を持つ避難者もおり、看護師の介助を受けながら服薬する姿も目立つ。

亀田総合病院の小野沢滋氏。知り合いの医師やソーシャルワーカー、ケアマネジャーを全国から集め、聞き取り調査を実施した。

 問題は、こうした要介護者の次の“行き場”がないことだ。石巻市健康部健康推進課の担当者は「元々特別養護老人ホームも100人待ちの状態だった。療養病床にも空きはない。避難者の経済状況を考えるとショートステイも難しい。かといって皆県外には出たがらない」と話す。厚生労働省は各地で建設されている仮設住宅に介護拠点施設を併設する方針だが、デイサービス主体の拠点で仮設住宅の要介護者にどれだけ対応できるかは未知数だ。

 訪問診療に至っては、震災から1カ月が過ぎてもどの程度ニーズがあるのかすら分からない状況だった。そこで千葉県鴨川市の亀田総合病院で在宅医療部長を務め、石巻市に医療支援に訪れていた小野沢滋氏などが市に掛け合い、4月中旬に被害がひどかった一部地域で訪問診療の必要な患者を掘り起こす聞き取り調査を開始した。

特に被害が深刻だった石巻市の松並地区で行われた聞き取り調査の様子。自宅にいる被災者に健康状態などを確かめる地道な作業が続いた。

 石巻市には、避難所での生活を避け、浸水を免れた自宅の2階などで生活する被災者が少なくない。避難所にいれば巡回診療などを受けられるものの、自宅で生活する被災者の中には、訪問診療が必要な人もいると考えられたためだ。小野沢氏は「慢性疾患の急性増悪などを予防するためにも、訪問診療のニーズを拾い上げることが大切だ」と説明する。

 石巻赤十字病院は4月4日から癌患者の化学療法など外来の一部を再開。石巻市立病院は4月7日に旧市庁舎でかかりつけ患者への処方箋の発行や紹介状作成を始めた。しかし医療の復旧はまだ緒に就いたばかり。医療と介護の両面で、息の長い支援が必要なのは間違いない。