*本記事は4/10発行の日経メディカル4月号に掲載予定の記事です

 避難生活の長期化で危惧されるのが深部静脈血栓症に伴う肺塞栓症。いち早く宮城県内の避難所を回り、被災者を対象に血栓の有無を調べた榛沢和彦氏に聞いた。


はんざわ かずひこ氏○専門は補助循環、大動脈ステントグラフト、肺塞栓症・深部静脈血栓症の予防など。中越地震で避難生活を送る被災者の深部静脈血栓症の実態などを調査。東日本大震災でも震災後3週間で3度宮城県入りした。

 避難生活が長引くことで心配されるのが深部静脈血栓症に伴う肺塞栓症だ。2004年の新潟県中越地震では、車中に避難した被災者の30%、避難所に避難した被災者の5〜10%に深部静脈血栓が認められ、肺塞栓症による死亡者も相次いだ。

 東日本大震災では、宮城県立循環器呼吸器病センター循環器科の柴田宗一氏とともに宮城県の石巻市や南三陸町など約20カ所の避難所を訪問。下肢膨張などを認めるリスクの高い被災者を対象に携帯用超音波装置で下肢の深部静脈血栓の有無を調べた結果、194人のうち44人(23%)に血栓が認められた。

 深部静脈血栓は、避難生活を始めてから1〜2週間の、支援物資などが乏しい時期にできやすい。一度血栓ができると慢性化する上、血栓のある患者のうち、腫脹などの症状が認められるのは20%程度に過ぎない。80%は無症状のため、呼吸困難など肺塞栓症の症状を呈さなければ気づかれにくい。

 東日本大震災での血栓の発生率は今のところ中越地震と同程度。ただし今回は、厳しい避難生活が長引くことが予想される。震災後3週たっても1日2食の避難所が多く、寒さも手伝ってあまり水分を摂取しない被災者もいる。被災者数が多いため、床一面に布団が敷き詰められ、歩くスペースのない避難所もある。こうした状況から、今回の震災では1カ月たっても新たな血栓ができる可能性があり、慢性期の血栓の発生率が中越地震よりも高くなる恐れがある。

東日本大震災で避難所に避難する被災者に認められた深部静脈血栓。(下写真とも榛沢氏提供)

 被災者の中には他県などに避難する人も少なくない。そうした被災者を診る際は、深部静脈血栓症のリスク因子の有無を確かめてほしい。リスク因子は(1)下肢の腫脹がある(2)打撲を含む外傷がある(3)車中泊の経験がある(4)運動していない─の4つ。加えて女性や静脈瘤もリスク因子となる。リスク因子を持っていたり、超音波検査などで深部静脈血栓が認められたりした被災者には、肺塞栓症のリスクを説明した上で、水分摂取や運動を勧める。弾性ストッキングの着用も有用だ。

 さらに超音波検査で近位深部静脈血栓が認められ、Dダイマーの値が高ければ循環器科や心臓血管外科のある総合病院などへ紹介するといいだろう。ただしその際は、ワルファリンの投与を控えてほしい。ワルファリンがプロテインCなどの抗凝固活性を低下させてしまうからだ。抗凝固療法を行うのであれば、ヘパリンカルシウムやフォンダパリヌクスナトリウムの皮下注射がよい。(談)

宮城県内の避難所を回り、リスク因子のある被災者について血栓の有無を確かめた。

【訂正】
最終行の「筋肉注射がよい」は、正しくは「皮下注射がよい」でした。お詫びして訂正いたします。