*本記事は4/10発行の日経メディカル4月号掲載予定の記事に加筆したものです

 人が密集して生活する避難所は、感染症が蔓延するリスクが非常に高い。避難所で特に注意すべき感染症とその対策について解説してもらった。
(まとめ:日経メディカル東日本大震災取材班)


たかやま よしひろ氏○2004〜08年、佐久総合病院(長野県佐久市)に総合診療医として勤務。09年4月から10年3月まで厚生労働省新型インフルエンザ対策推進室室長補佐を務める。

 被災地の感染対策で重要なのは、まずインフルエンザ、次いで、ノロウイルスロタウイルスといったウイルス性胃腸炎だろう。また、高齢者の尿路感染症を予防することも重要だ(表1)。

 感染対策の第一歩は、被災地に感染症を持ち込まないことだ。避難所の中でインフルエンザやウイルス性胃腸炎が自然発生するわけではない。誰かが持ち込んでいるため、それを極力遮断することが重要となる。院内感染を広げるのが医療従事者であることが少なくないように、被災地で感染を広げるのが避難所を巡回するボランティアである可能性もある。ボランティアにも手洗いを心がけさせ、感染症が流行する地域ではマスク着用を促したい。

 また、避難所を個人の家と同じような感覚で扱い、その隔離性を維持することはプライバシーに配慮することのみならず、感染対策上も有効となる。複数の避難所を巡回しているようなボランティアは、なるべく避難所に入らないことが望ましい。もちろん、発熱しているボランティアは被災地を離れるべきである。

 感染症のアウトブレイクを早期に発見できれば、感染対策を効果的に開始することができ、ハイリスク者を避難させることもできる。そのためにも、避難所ごとに感染症サーベイランスを行いたい。専門的な知識は不要だ。発熱や咳、嘔吐、下痢など症状別に有症者数を毎日カウントし、避難所の中で急速に増えてきている症候がないかを確認する。何らかの兆候を察知したら、保健所などの専門機関に連絡し、対策を仰ぐようにしたい。

表1 被災地・避難所で注意すべき感染症(編集部まとめ)

 インフルエンザを含む呼吸器疾患が発生したら、有症状者にはマスクの着用を徹底させる。マスクがなければ、周囲の人と2m以上の間隔を空けるか、ついたてで隔離することが感染拡大の防止策となるだろう。過度に乾燥させないように、換気は1日2回程度に抑えた方がよい。経験豊富な感染管理看護師(Infection control nurse:ICN)がこうした避難所で果たせる役割は大きいと思う。

 尿路感染症は、若い女性や高齢者などが起こしやすい。混雑したトイレになるべく行かずに済むよう水分制限するためだ。予防は水分を多く摂取し、排尿を我慢しないことだ。そのためにもトイレの増設と衛生管理の支援が求められる。具体的な設置目標数は、被災者20人に1つのトイレといわれている。これはウイルス性胃腸炎の流行を抑止させるためにも必要な条件である。

 また、尿路感染症に関連して配慮したいのは、成人用オムツや尿取りパッドなどの配布方法だ。こうした生理用品を必要とする中高年も少なくないだろうが、自分からは言い出せず、水分を制限している可能性もある。プライバシーに配慮して、申し出なくても取れる場所に在庫を置いておくことも、尿路感染症の一つの予防策となるだろう。

 有症状者には、安全な水と経口補水塩(ORS)を含む基本的医薬品が手に入るよう支援したい。言うまでもなく避難所は病院ではないので、症状の重い方については、医療関係者は「避難所では診られない」と行政などに強く訴えられた方がよい。これについては、無理にがんばらせないことがご本人のためであり、感染対策としても望ましい。

 被災地の状況は地域ごとに刻々と変化していると思う。特に、水や消毒薬などの物資の不足、トイレの不足が、いまだ多くの避難所において対策の大きな足かせとなっていると認識している。感染症医の立場から正直に申し上げれば、あらゆる厳格な対策を試みても、一緒に寝起きしている限り、感染を確実に回避することは困難だ。限られた物資を浪費するよりは、乳児などのハイリスク者を避難所外へ移動させることを考えた方がいいかもしれない。

 ただし、妊産婦や高齢者を感染防止のために避難所から動かそうという場合には、家族もそろって移動できるように支援すべきだ。多くの物を失い、傷ついた被災者にとって、家族の結び付きは大きなよりどころとなっている。これは災害支援における重要な視点であり、感染対策に優先されるものだと思う。

 被災地における究極的な感染症対策は、避難所の人口密度を減らすことだと言える。復興の足取りが加速するとともに、避難所暮らしが長期にわたらないよう、仮設住宅の建設が進むことを期待する。それまでの間、被災地外の市民としては、積極的に被災者の疎開が受け入れられるよう呼び掛けたい。(談)