*本記事は4/10発行の日経メディカル4月号に掲載予定の記事です

 福島第一原発の被災事故による放射性物質汚染の影響が懸念されている。被曝を心配する患者や、汚染の可能性がある患者への対応法を聞いた。
(まとめ:日経メディカル東日本大震災取材班)


やまもと なおゆき氏○放射線科医。愛媛県緊急被ばく医療アドバイザー。2011年3月まで、同県「初期被ばく医療機関」に指定されている市立八幡浜総合病院(愛媛県八幡浜市)副院長。

 医師の間でさえ、放射性物質の汚染や被曝に関する正しい知識を持っている人は少ない。2次汚染・被曝の恐れなどから、「できれば関わりたくない」と思っている医療者も多いことだろう。

 しかし、今回の放射線災害は巨大地震、津波などとの複合事象であり、福島県内だけで対応できる状況ではない。実際に原発敷地内での作業者の創傷汚染は放射線医学総合研究所(千葉市稲毛区)で対処された。今後、原発周辺地域からの避難者や支援で同地域に入った人、原発の被災映像を見て放射性物質の汚染や被曝に対して不安を抱いた人が、検査や処置について最寄りの医療機関に問い合わせてくる機会も多いと思われる。

20km圏外は健康影響ない
 3月末時点で、福島第一原発から20km圏外で測定された大気中の放射性物質の濃度(空間線量率)は人体には全く影響ないレベルであり、事故後その圏内に立ち入っていない人に対し、特段の検査は必要ない。

 放射線により発生するは他の原因で発生する癌と特別な違いはない。仮に被災者が今後癌になったとしても、それが被曝と関係あるのかどうかということは、一人ひとりについては証明することはできず、ある程度の放射線被曝をした人の集団が被曝していない人の集団に比べて癌の発生率が多くなったかどうかを比較するしかない。

 これまで日本の原爆被災者の追跡調査(図1)や、諸外国での事故などの被害者調査が綿密に行われており、100ミリシーベルト(mSv)未満の被曝で悪性腫瘍の発生が増えることは認められていない(Svは人体への影響を評価するための被曝線量の単位で、1人が年間に受ける自然被曝量は約2.4mSvとされている)。100mSv以上であればリスクが数%高くなるといえるが、その上昇はわずかであり、喫煙や化学物質などの影響よりも低いといわれている。

図1 原爆被爆者における白血病の過剰絶対リスクと線量の関係
1950年時点での広島と長崎の原爆生存者集団8万6572人を追跡調査。白血病は被爆後最も早く発生した腫瘍。白血病死亡頻度(過剰絶対リスク)は、約2.5Svまでは線量が大きいほど増加する傾向にあるが、0.05〜0.1Svの低線量域ではゼロ以下。
(出典:Radiat Res 1996;146:1-27.)

 今回の地震以降に頭痛、吐き気、食欲不振などが生じた場合、放射線の影響ではなく、不安による症状であったり、その他の疾患の可能性が考えられる。また、福島県内外の水道水から微量の放射性物質が検出されているが、その量は人体に影響のないレベルである。

脱衣で汚染物質の9割減少
 圏内に立ち入った人に関しては、その場所や時期・時間によって状況は相当異なる。長期に滞在している人の一部に、除染することが望ましい程度の放射性物質による体表面の汚染が考えられる。

 そのような人に対しては、現地滞在時の着衣、帽子、靴などはまとめてビニール袋に入れて口を縛り、人が近づかない場所に置き、シャワー浴やぬれタオルなどで髪や顔面など露出面を洗うよう指導する。このとき、シャワーの水を飲み込んだり、強くこすって皮膚を傷つけないよう注意する。なお施設などで、除染や全体的な洗浄を行う場合には、作業員が飛沫などにより汚染しないよう装備などに配慮が必要である。