*本記事は4/10発行の日経メディカル4月号に掲載予定の記事です

 震災から約1カ月がたち被災地の医療ニーズは変化。避難所での生活を余儀なくされる被災者の感染症対策から、精神的ケア、被曝リスクの説明まで、多様な医療ニーズに応えることが必要だ。


岩手県陸前高田市の病院で被災者の診療に当たる医療スタッフ(3月21日)。
写真提供:ゲッティイメージズ

 これまでのところ、震災による死亡者の80〜90%の死因が溺死。沿岸部では津波から逃れた後、救助を待つ間に脱水症状や低体温症に陥って死亡する高齢者も相次いだ。

 阪神・淡路大震災では、死亡者の多くが倒壊家屋の下敷きになって圧死した。救助された被災者の中には、瓦礫などに挟まれた外傷患者が多かった。しかし、東日本大震災では、外傷患者はほんのわずか。溺れて助かった被災者の中には、ガソリンなどの汚染物質を含む海水を飲み、救助後に肺炎を発症する例も見られたが、想定外の津波が生死を分け、黒タグばかり付けて被災地から戻る医師も少なくなかった。

 震災後、現地に入った医療者にまず求められたのは医療機関に入院していた患者への対応だった。3月14日に宮城県仙台市に入った国立国際医療研究センター救急科の佐々木亮氏は、筋萎縮性側索硬化症患者を多数抱えていた県内沿岸部の病院から、都内の病院への患者の移送などを調整した。「限られた人と時間の中で、ヘリコプターの着陸場所や移送中に何の医療機器を使うかなど、幾度となく変更を余儀なくされて苦労した」と話す。

 一方で、被災した老健施設や特養などではライフラインの途絶により多くの入居者が死亡。避難所でも多くの医療者が、高血圧糖尿病不整脈などの慢性疾患を抱える高齢患者への対応に忙殺された。

刻々と変化する医療ニーズ
 現在被災地では、感染症肺塞栓症精神疾患が増えることが懸念されている。下水道が復旧していない避難所でノロウイルス感染症などが広がったり、避難生活で体力が低下し、日和見感染が増えることも危惧され、衛生状態の改善や被災者への注意喚起が急務。一部の避難所では既にインフルエンザの流行も始まっている。深部静脈血栓症に伴う肺塞栓症を予防するため、学会などが弾性ストッキングを配布する動きも始まった。ただし、取り組みが行われているのはまだごく一部。予防には水分補給や頻回の歩行も有効だが、狭い避難所では歩行が困難な高齢者も多い。

 今後は、被災者の精神的ケアも重要になる。被災を機にうつ病パニック障害などの精神疾患を発症する被災者もいるほか、外傷後ストレス障害PTSD)、睡眠障害などを呈する被災者も出つつある。

 さらに東京電力・福島第一原子力発電所の放射性物質の汚染は被災地以外にも拡大。今後、被災地に限らず、全国的に低用量被曝の影響を心配する受診者のため、被曝のリスクについて説明することも求められそうだ。

 明日以降に順次公開するVol.4〜7では、被災者を中心に発症が懸念される、感染症、肺塞栓症、PTSD、被曝による健康障害について、専門家に聞いた。