全入院患者の搬送は必要なかった
 話はさかのぼりますが、厚生労働省は3月18日に、20〜30km圏内にある病院の入院患者を全員、県外に搬送する措置を決定しました。しかし、寝たきりの高齢者を移動させるのはとても酷でした。搬送中に状態が悪化して亡くなった患者も少なくありません。私は、行政が放射線量を綿密に測定して安全性を担保するほか、医薬品などの物資をしっかり確保する措置を取っていれば、搬送の必要はなかったと思っています。

 いざという時に迅速に避難できるように、政府と県が4月に決めた「各病院5床まで、入院期間72時間以内」という入院規制も不可解です。この措置は6月まで続きましたが、入院規制のために救急患者を受け入れることができず、1時間半ほどかかる福島市などに搬送せざるを得なくなったケースも多くありました。実態に合った措置とは到底言えません。

 住民の内部被曝の状況を調べるために精度の高い海外製のホールボディカウンター(体内に沈着した放射性物質量の測定装置)を導入しようとしたときも壁にぶち当たりました。5月に市に購入をお願いして市長の確約も得たのですが、その後なかなか話が進まず、導入が実現したのは5カ月後の10月でした。その間に放射線医学研究所から、「茨城県東海村での事故のデータがあるので導入する必要はないだろう」と言われたり、公的機関や行政の反対にも遭いました。

元の南相馬市に戻すのは難しい
 一方で、医療機関の経営は悪化の一途をたどっています。230床あった市立総合病院はいったん病床を休止した後、徐々に増やして現在は120床まで回復しましたが、黒字には程遠い状況です。民間病院も苦しく、小野田病院では毎月5000万円の赤字が発生しているそうです。ほかの病院も休止中か半分以下の病床しか再開できておらず、苦境に立たされています。外来患者も震災前より大幅に減っています。にもかかわらず、原発事故の損害賠償は、11月中旬まで支払われなかったのです(編集部注:11月中旬にまでに支払われたのは8月分までの賠償金)。

 今後、南相馬市が元の形に戻るのは難しいかもしれません。医療機関の運営を諦めて廃止届けを出すケースが出てくる可能性もあります。人口や震災後の医療ニーズに合わせて各病院を再編する話も出ていますが、住民感情などを勘案するとそれもすんなり行くとは思えません。これから先の状況がもう少しはっきりするまで、各医療機関は今の形で踏ん張るしかないでしょう。

 合わせて除染作業も進めなければいけません。他国の自然被曝(イランのラムサールは年平均10.2ミリシーベルト、ブラジルのガラパリは5.5ミリシーベルトなど)の状況や、広島と長崎の原爆被爆者の疫学調査によると生涯癌死亡リスクは100ミリシーベルトで0.5%上がるとされていることに加え、子どもへの放射線の影響などを考慮すると、外部被曝が年間3.5ミリシーベルト以下の場合は安全だと、私自身は考えています。

 現在、妊婦に線量計を配って年間被曝量を推計し、この値をベースにして推計値が3.5ミリシーベルトを超えた場合、東大のグループなどと協力してその妊婦の家屋や庭などを除染する作業をしています。その際、除染する空間を細かく分けて各ポイントで除染前後の放射線量を計測しています。これらのデータから効果的な除染の仕方が分かるでしょうし、低線量被曝の実態を探るのに役立つ研究ができると考えています。