5月に入ると、入院患者さんを受け入れてくれていた東京の病院から「そろそろ患者さんを戻せないか」との問い合わせが増えてきました。そこで5月下旬、ようやく常勤医師3人になったこともあり、162床を再開しました。ですが、医師3人では当直体制を取るのが困難でした。

 病院の再開に向けて医師の採用活動を始めたのですが、大学医学部や県などにお願いしても「余裕がない」といった理由でだめ。紹介会社2社にも依頼しましたが、登録している医師にいわき市の病院であることを伝えると、みんな断られてしまうらしいのです。それは今も変わりません。

 八方ふさがりになった私たちが最後にお願いしたのは、いわき市医師会でした。もうすがれるところが他になかったのです。当病院の現状を文章にして医師会に持って行くと、会員の医療機関に回覧してくれました。すると、6人の開業医の先生が当直を引き受けてもいいと手を挙げてくれたのです。これにはとても感謝すると同時に励まされました。開業医の先生たちには今でも月1回や2回、毎週1回など、都合に合わせて様々な形態で勤務してもらっています。

 さらに、以前から非常勤医師を派遣してくれていた杏林大外科教室も派遣を再開してくれるようになったほか、窮地に陥った当病院の新聞報道を見て、20年くらい前に勤めていて、今は関東などの医療機関で勤務している先生たちが自身の休日にボランティアで手伝いに来てくれるようにもなりました。ただただ、感謝の言葉しかありません。しかし、いつまでも医師会などの先生に頼ることはできません。効果的な採用方法は今のところ思いつかないのですが、なんとかして1人でも常勤医師を早く雇用しなければと思っています。

 看護師の採用も苦戦を強いられているのが現状です。あと20人ほど採用しないといけないのですが、7月に募集した際には9人しか応募がありませんでした。原発事故の影響もありますが、地域の職業安定所に聞くと、特例措置として現在、震災の被害で離職を余儀なくされた労働者には雇用保険の基本手当が日数を延長して給付されており、この給付期間が終了する来年初めころまでは就職希望者は少ないのではないかとのことでした。

原発から36kmは損害賠償の対象外
 一方で、東京電力損害賠償は受けられない状況です。賠償の対象となるのは、福島第一原発から半径30km圏内の病院で、36kmの地点にある当病院は対象外だからです。ですが、病棟を閉鎖しなければならなくなるなど、原発事故の影響で3月から5月はほとんど収入がない状態でした。当病院は2007年3月に建物をすべて建て替えたばかりで、資金的に厳しい状態でもあります。医療従事者の不足に陥ったのも原発事故が原因であり、これでは納得できません。

 9月6日には厚生労働省が、入院基本料を算定する際に配置が必要な人員に関する基準の緩和措置を通知しましたが、東北厚生局によると、この措置は既に病棟を運営している病院が対象で、これから病棟を再開しようとしている病院には当てはまらないとのこと。当病院は今、休止している1病棟(48床)の再開を模索しているのですが、その際には緩和措置を受けられないということです。

 9月30日には、福島第一原発から半径20〜30km圏内に設定された緊急時避難準備区域(緊急時に屋内退避などが求められる区域)が解除されましたが、避難している住民も多く、震災前の地域の姿にスムーズに戻せるのか心配されます。まずは除染を徹底するほか医療機関と学校を通常の運営に戻し、住民が安心して戻って来られる状態を作らなければいけないのではないでしょうか。そのためには国が、被災した医療機関に対する支援をもう少しきめ細かく行ってもらえることを願っています。ずっと支援を継続してくれと言っているのではありません。ある程度立ち直るまででいいので、手を差し伸べてくれることを願います。