死者・行方不明者1300人以上、避難者5000人以上に上った岩手県釜石市。同じ釜石医療圏にある大槌町に至っては町全体が壊滅状態に陥った。他の被災地と同様、震災直後から数多くの医療支援チームが派遣された。その支援チームの配置調整役として活動してきたのが、釜石医師会災害対策本部長の寺田尚弘氏だ。

 釜石ファミリークリニックの院長でもある寺田氏は、震災前から釜石医療圏の在宅医療を担っており、在宅患者数は約330人にも上っていた。元々、釜石市は市内に複数ある病院の機能の明確化を図る一方で、在宅医療の普及を推進してきた。しかし、地道な努力で築いてきたネットワークに、大津波は深刻な打撃を与えた。同クリニックの在宅患者も、3分の1が死亡・行方不明になったり市外に移転してしまったという。

 震災発生から3カ月余り。釜石医療圏における医療提供体制の状況や、今後の在宅医療の回復の見通しなどを寺田氏に聞いた。

(まとめ:豊川琢=日経メディカル)

釜石医師会災害対策本部長として医療支援チームの調整役を担った寺田尚弘氏

 3月11日の震災後、多くの医療従事者の方々が医療支援に来てくれました。避難者の間でインフルエンザや感染性胃腸炎などが散発しましたが、医療支援チームのおかげで蔓延せずに済みました。とても感謝しています。

 震災から3カ月余りが過ぎ、避難者の状態もだいぶ落ち着いてきています。このため、6月19日をもって、主として避難所での診療を受け持ってくれていた医療支援チームの方々にも引き揚げてもらうことにしました。被災した診療所や病院の大半が仮設の施設で診療を再開し始め、避難所の数も減っています。また、鉄道やバスなどの交通機関が復旧し、被災者の方々が医療機関に通う手段も確保できるようになりました。

 避難所での医療は薬剤処方が主です。ただ、患者の症状は日々変化しているため、検査などを数カ月間もしないまま薬剤処方を続けていくのは不安があります。血液検査やレントゲン検査など基礎的な検査を定期的に実施して、症状をしっかり見定めた上で治療をしなければなりません。今の状況のまま診療を続ければ、医療支援チームにも不安が募るでしょう。その意味からも、そろそろ地元の医療機関が医療支援チームから患者を引き継ぐ時期だと思いました。

 ただ、医療支援チームに引き揚げてもらうという方針を知り、「もっと、いてもらいたい」と要望する被災者も少なくありませんでした。そこで、5月下旬から避難所を巡回する際、各チームに、処方だけでは正しい治療ができなくなり、最終的には患者の不利益になることを被災者に説明してもらい、地元の中核医療機関などで検査を受けるよう、誘導してもらいました。同時に、診療を再開した地元の医療機関に関する情報も伝えてもらいました。こうした取り組みにより被災者も納得してくれて、目立ったトラブルは起きていません。

仮設住宅が徐々に整備され、避難者の入居が始まっている

これまで以上に医療・介護の連携を重視
 一方で仮設住宅の整備が進み、避難所から移り住む被災者が増えているのに伴い、在宅医療の必要性が増しています。釜石医療圏は元々、在宅医療の普及に力を入れていた地域です。今回の震災では在宅医療を担っていた開業医の先生たちの被災の度合いが小さかったので、今でも十分なサービスを提供できる体制にあります。

 しかし、問題もあります。在宅医療には、患者家族の介護力がある程度必要です。介護事業者のサービスだけで患者の在宅生活は支えられません。一方、患者家族は、震災で家屋だけでなく仕事も失ったため職探しなどに時間をかけなければならなくなり、患者の介護に費やす時間を以前より確保できなくなったり、介護が大きな重圧となってしまうことが予想されます。避難所から仮設住宅に移ったからといって、以前の在宅医療・介護を提供すれば支えられると単純には考えられないのが実情です。