福島県立医科大学附属病院の医療は、東日本大震災の発生直後の混乱期を乗り切り、県内の被災地に広く医療支援を行う第2段階に入った。同大学理事兼副学長の阿部正文氏は医科大学の使命として、「被害を受けた医療体制の立て直しと、将来の県民の安全と安心の確保」の2点を挙げる。同大学の現状を、阿部氏と副院長の横山斉氏の2人に聞いた。


福島県立医科大学理事(教育研究担当)兼副学長兼学生部長の阿部正文氏(左)と同大附属病院副院長の横山斉氏(右)

 福島県立医大病院は、震災直後の数日間に被災者168人を受け入れ、155人を別の病院へと搬送した。重症の患者10人は、入院させたが満床であったため、セミナー室などの平時は診療行為を行わない場所に布団を敷くといった対応を余儀なくされた。

 「医療復旧の妨げになったのは、断水とガソリン不足」。震災直後の状況を阿部氏はこう振り返る。「診療には大量の水が必要になる。県や自衛隊の給水車から補給を受けたが、手術などはすべて取りやめて、しのいだ。上水道が復旧したのは3月18日。備蓄の水があと3日で底をつくという状況だった。また、職員の確保という観点からは、ガソリン不足が深刻な問題だった」(阿部氏)。

地域医療崩壊への対策を震災でフル活用
 こうした緊急事態を脱し、現在は医療班を組織して県内の巡回医療に注力している。その中での課題を、副院長の横山氏は3つ挙げる。1つは、避難所で寝起きする住民たちの健康管理。2つ目が、福島第一原子力発電所から20〜30kmのグレーゾーンに取り残された高齢者のケア。3つ目は、患者が集中している基幹病院の負担の軽減だ。

 避難民の健康管理を目的に福島医大病院では、地域医師会、日本医師会災害医療チーム(JMAT)と共同で、避難所に毎日1〜2班の医療チーム(1チーム4〜5人で構成)を派遣している。現在、喫緊の課題となっているのが静脈血栓塞栓症、いわゆるエコノミー症候群の発見と治療だ。これまで1600人をスクリーニングしたところ、全体の10%前後という高率で疾患が認められ、50%以上が発症していた避難所もあった。

 「心のケア」も重要なテーマだ。震災でとりわけ多くの犠牲者を出した相馬市やいわき市には精神科のチームを派遣している。また、避難所で特に感染症にかかりやすいのは小児なので、保健所と福島医大病院の小児科が連携して治療に奔走している。

 福島第一原発の事故で自主避難が促されている20〜30km圏内(4月22日からは20km圏外の一部が計画的避難区域に指定)を福島医大のスタッフが巡回したところ、医療ニーズがありながら取り残されている住民を約150人確認したという。多くは介護を必要とする高齢者だ。そこで、地域・家庭医療学教授の葛西龍樹氏ら医師と理学療法士、長崎大学医学部附属病院や長崎県医師会のボランティアの医師らが、訪問介護や訪問リハビリを実施している。

 また、震災によって中小の医療機関の多くが機能不全に陥り、公立相馬総合病院、いわき市立総合磐城共立病院、福島労災病院など地域の中核医療機関に患者が集中している。それらの施設の負担を軽減するために、福島医大病院から毎週90人の医師を派遣している。

 震災以前から“地域医療の崩壊”に直面していた福島県は、既に「地域医療等支援教員制度」を立ち上げ、後期研修修了後の若手医師を教員待遇で雇用し、地域の民間病院に派遣してきた。今回の非常事態に当たり、この仕組みをフル活用した対応が可能となり、「県との関係が深い県立大学としての強みが発揮された」(横山氏)という。