19時38分、ER1ベッドに誘導された患者は、顔色が悪く、呼吸は停止。
どうみても、津波で死亡状態の雰囲気。その印象は、極度に冷えた体。
「ソケイ部、動脈、静脈、両方取れている。すぐに、PCPSカテーテルを入れて。ナースは直腸温測定して。チャンスはあるよ。救急隊現着時、レベルJCS10!」私。

吉岡医師と軽米医師はすでに水色の手術ガウンを着ていた。
19時40分、茶色いイソジンが両側ソケイ部に塗られる。
「優先順位は“ABCDE&double I”だぞ」
A)気道、B)呼吸、C)循環、D)意識、E)体温が破綻していて、infection(感染)とischemia(虚血)にそれほどこだわらなくていい。はやめにCとD、Eを持ち上げる。
「直腸温25度です」ナースの声が響く。
「手ごわいぞ。すでに入れている血管留置針に、ガイドワイヤーを入れて、サーとやれ」
「はい」

19時53分、動脈と静脈に小指ほどのチューブが挿入され、人工心臓ポンプと人工肺に患者の血液が流れ出した。酸素で鮮紅色に再生した患者の血液はさらに40度に加温されて体内に入る。
20時3分、「心電図波形が変わった。サイナス(洞調律)」吉岡医師が叫ぶ。
「チェックパルス!頸動脈パルスあり。心拍再開」丸橋医師が言いながら頸動脈を触る。
「エコーして」私。
エコーで心臓の動きを見る。
「左心室よく動きます」ガウンを脱いだ吉岡医師が言う。
「自発呼吸あり」汗びっしょりの軽米医師。
「体温28度」ナースが言う。

男性はICUに入院した。

翌日、バイタルサインはOK。
体温は36度。
意識は開眼し、手を握る。
「おー、すごい。劇的救命だ」河野医師が言う。
「津波で、CPAから救命はめったにないよ。だって、普通はトリアージで黒になるから」私。
「さあ、昨夜はまだ、災害の影響の前だったから、ここまでやれた。今日は、同じ患者が運ばれてもこの治療はできないよ」私。
「今日はどうしましょうか」吉岡医師。
「循環が戻っていれば、PCPSを止めるよ。すでに院内の酸素と電力が危うい。できるだけ普通の治療に下げたい。午前にPCPSを止め、午後にチューブ抜去の手術をやるよ」私。

・・・・

4日目に、気管チューブを抜いた。
患者に笑顔が見える。

災害現場であっても、医療者と患者数のバランスが破綻していなければ全力投球する。
医療材料と患者数のバランスが破綻していなければ、全力投球する。
救急医療と災害医療の区別は、その時、場所で条件が変わる。

「津波で家はダメですが、父が助かりました」娘。

災害時でもこの町にはドクターカーとドクターヘリがいつも通りに走り抜ける。

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