3月11日に発生した東日本巨大震災により、避難所での生活を強いられている被災者は35万人以上に上るとみられる。被災の影響で医療の提供が手薄になる中、救急対応に加え、生活習慣病をはじめとする慢性疾患を抱えた患者への診療も、同様に重要だ。

 姫野病院(福岡県八女郡)救急総合診療科部長で、日医災害救急医療対策委員会の委員を務める永田高志氏は、震災発生から2日後の3月13日に福島県いわき市へ。日本医師会災害医療チームの一員として、15日までの3日間、主として避難所で診療に当たった。
(まとめ:二羽はるな=日経メディカル)


 いわき市では約1万4000人が、140カ所の避難所に身を寄せているといわれています。

 初日はまず、現地の医師らと分担して、各避難所にどのような方がいるのかの把握で終わりました。人数や男女比、高齢者や子供の人数、急いで診察する必要のある方、被曝した可能性のある方は何人くらいいるのか…といった状況の把握です。現地の方の運転で、1つの避難所につき10〜15分くらいかけて回りましたが、8カ所の避難所の情報収集に12時間かかりました。

 そこで分かったのは、とにかく診療を必要としている人がとても多いということ。どの避難所でも高齢者が3割以上いて、持参薬はほとんどない状態でした。140カ所ある避難所を限られた人員で回るのは、とても困難だと思いました。

 翌日は2700人が避難する草野小学校と1000人が避難する四倉高校に赴き、診療を行いました。主に行ったのは常用薬の処方で、降圧薬、糖尿病薬治療薬の処方が中心でした。患者にこれまでどのような薬を飲んでいたかを聞いて処方し、周辺にいくつか残っていた薬局で調剤してもらうようにしました。

 福島第一原子力発電所の近くから避難されてきた、被曝疑いのある被災者のスクリーニングや、自衛隊部隊が行う除染活動にも協力しました。「衣類はどうしたらよいか」といった被災者の方の相談に乗ることが多かったです。

 通信手段としてはauの携帯電話を持っていましたが、いわき市内では電話はほとんど使えず、メールも送受信できないことがありました。このため、外部とのやり取りにはパソコンのメールを使っていました。

どの薬を処方すればいいか分からない
 現場では、とにかくスピードを優先せざるを得ませんでした。草野小学校では、地域医師会の先生と2人で、3時間で100人の患者を診ました。事前に保健師らがトリアージを行い、医師の診察と処方が必要な患者のみに診察を行い、さらに胸の痛み、吐き気などの症状がある患者に対して追加で診療を行いました。

 ただ、追加の診療といっても、具体的に様々な処置ができるわけではありません。医学的に見て、緊急性がないかどうかを判断しました。

 基本的には患者から聞き取って処方するため、これまで飲んでいた薬が特定できず、判断に迷う場面が多々ありました。「血圧を下げる薬」「血糖値を下げる薬」「血をさらさらにする薬」といった患者の説明では、様々な機序の薬のうち、どれかが分かりません。自分の臨床経験から判断したり、副作用の少ない薬を選んで処方するようにしました。

 もちろん、うまく聞き取るためのコツもあります。例えば「血をさらさらにする薬」を飲んでいたという患者には、「薬を渡されるときに『納豆を食べないように』と指導されたことはないですか」と聞いてみます。血をさらさらにする薬というと抗血小板薬や抗凝固薬が考えられますが、納豆を食べないように指導されていればワルファリンのことだと分かります。

 特に注意したのは、血中濃度を維持しなければならない薬の処方です。インスリン、ワルファリン、免疫抑制剤、抗痙攣薬については、血中濃度を維持する必要性が高く、服用していなかったかを必ず確認しました。このほか降圧薬、糖尿病治療薬、抗血小板薬、喘息患者への吸入ステロイド、リウマチ患者への抗リウマチ薬なども処方の必要性が高いです。一方で、健胃薬など、喫緊に必要でない薬については、患者に説明した上で処方を見送らざるを得ませんでした。

 また、糖尿病治療薬の中には低血糖を引き起こすものがあるため、食生活について確認することが必要でした。避難所では、十分な食事を摂れていない可能性があります。実際に、私が診察した中でも、食事を摂らずに薬を飲み、低血糖発作を起こしたという方がいました。しばらく食事ができていないのであれば休薬し、さらに、服用開始後はご家族に様子を見てもらうようお願いしました。

求められるプライマリケア医
 ただ、私は救急医で外科系であり、迷うことも多く、本当に私でよいのかとジレンマを感じる場面も少なくありませんでした。もちろん、ある程度の処方はできますが、内科に精通した、プライマリケア医が現場で求められていると痛感しました。

 また、診察時には、ちょっとした言葉遣いにも配慮が必要となります。診療の合間に「ご家族は無事でしたか?」と声をかけたのですが、泣かれてしまいました。避難所には複雑な思いを抱えた人がたくさんいます。短時間に多くの患者を診なければいけないこともあり、診療は淡々と進めた方がよいと感じました。