もう元の市には戻れない?
 それでも今後、元に近い人口まで回復すれば、震災前の医療提供体制に戻せる可能性はある。しかし、「それは難しいのではないか」と地元の医療関係者は口をそろえる。

 政府は4月、福島第1原発から20km圏内を警戒区域(原則立ち入り禁止区域)、20〜30km圏内を緊急時避難準備区域(緊急時に屋内退避などが求められる区域)に指定。南相馬市は、両方の区域に該当した。福島県病院協会会長の前原和平氏は、「警戒区域は当分残るだろうが、緊急時避難準備区域が解除されれば人口はだいぶ回復すると思っていた」と振り返る。

 ところが実際は、9月30日に解除されても人口は数百人しか増えなかった。つまり、戻る意思のあった避難者は緊急時避難準備区域の解除前にある程度戻り、それ以外の人たちは既に避難先や他の地域に移住してしまった可能性があるわけだ。

 「原発から離れていても南相馬市より放射線量が高い地域があったのに、政府は同心円状に機械的に緊急時避難準備区域などを指定した上、放射線量のデータを迅速に提示しなかった。こうした対応が、多くの市民に放射性物質汚染への過度な恐怖心を植え付け、南相馬市の人口回復の障害になった」。市医師会長の高橋氏はこう嘆く。

 このまま人口が増加しないとなれば、各病院は診療機能を縮小したまま運営するか、最悪の場合、廃院を余儀なくされる可能性もある。震災前は199床あり、現在は75床(一般病床40床、医療療養病床35床)に規模を縮小している小野田病院のある職員は、「小規模では経営が厳しい。このまま病院として運営を続けられるのか心配だ」と打ち明ける。

第3次補正予算の後押しも…
 そこで、医療関係者の間で最近ささやかれ始めているのが、市の医療提供体制の再編だ。「市立総合病院は今後病床を増やせても最大150床程度が限界で、市内の民間病院はさらに厳しい状況にある。隣町の相馬市の病院も含めて再編・統合を視野に入れなければならなくなるのではないか」と金澤氏は話す。

 11月21日に成立した第3次補正予算では、復興支援策として被災3県の地域医療再生基金を積み増し、医療機能の集約や分化などを後押しした。同氏は、「こうした予算を使えば円滑に再編できるかもしれない。04年の新臨床研修制度の施行以降、中規模病院ばかりの相双地区では研修医を確保できず医師不足が加速している。再編を機に400床規模の高機能病院が1つできれば、その解消も期待できる」と語る。

 ただ、再編の実現はそう簡単ではなさそうだ。

 実は同市では、08年ごろから医療提供体制の見直しが課題となっていた。200床前後の中規模で機能も似通った病院が林立し、救急医療や慢性期医療などの需要に応えられなくなっていたほか、癌や脳卒中の診療体制の未確立が問題となっていたからだ。救急に関しては、相双地区に大規模病院がないため、3次の救急患者は車で1時間半ほどかかる福島県立医大か仙台市の病院まで搬送しなければならない状況にある。

(左)津波で流された家屋が建ち並んでいた地域は、がれきがすっかり撤去されたが、依然として荒涼としている。
(右上)南相馬市役所前には放射線量の測定器が設置されている。
(右下)立ち入り禁止区域から1kmの場所に置かれた「立ち入り制限中」を伝える看板。