「東京電力福島第一原発事故を受けた緊急被ばく医療体制の再構築にむけて」と題した研究会が8月27日、埼玉県和光市で開催された。主催は「放射線事故医療研究会」。わが国を代表する被曝医療専門家が結集したこの会は、冒頭からさながら反省会の様相を呈すことに。専門家らは何を見誤ったのか、そしてそこから何を得たのか。


 「東京電力福島第一原発事故は、私たちの想定を超す過酷事故となってしまった。これまでの地元医師会の医師らとの交流会では、過酷事故は起きないと説明してきた研究会の幹事の1人として、真摯に反省するとともに、福島県の皆様には心からお詫びしたい」

 第15回放射線事故医療研究会は、大会長である鈴木元氏(国際医療福祉大学クリニック院長)の基調講演の冒頭、自らの見込み違いを率直に認める発言での幕開けとなった。この研究会が発足した1997年は、被曝事故医療関係者の間では、六ヶ所村の再処理施設の稼動が迫り、またその再処理施設の事故を予感させる東海村アスファルト固化施設火災爆発事故が起こった年として記憶されている。東海村JCO臨界事故で3名の重症被曝患者が発生したのは、その2年後のことだった。

 その後の研究会では、東海村JCO臨界事故や旧ソ連で発生したチェルノブイリ原発事故の情報を収集、同様の事故が新たに起こった際の対策について検討を重ねてきた。この間、被曝事故・医療の第一人者であった鈴木氏にとっても、今回の事故は想定を超えた深刻な事態だった。当日の研究会では鈴木氏に続き、事故直後から現地入りして対応に走り回った国立保健医療科学院や放射線医学総合研究所、日本原子力研究開発機構の関係者ら8名が事故後の対応と課題を報告した。

広域、多数、低線量の被曝事故
 報告者の1人で、原発内で医療支援を行った三菱神戸病院の衣笠達也氏は、今回の事故の特徴を「広域に汚染され、多くの住民が被曝、その被曝線量は低線量であったこと」と指摘した。広域の汚染が引き起こされたことによって、事前に頼みの綱と想定されていた原発近くの医療機関の多くが機能不全に陥ってしまった。

 福島第一原発で放射線、放射能漏れを伴う事故が起きた場合、南相馬市立総合病院や双葉厚生病院など初期被曝医療機関に指定されている5つの病院が初期被曝医療に対応すると取り決められていた。ところが、地震、津波でほとんどの医療機関が診療を行うことができず、震災翌日の3月12日に避難区域が「原発から20km圏内」へと拡大された結果、3つの初期被曝医療機関がこの避難区域に入ってしまった。震災直後から現地入りした放射線医学総合研究所緊急被曝医療研究センターの富永隆子氏によると「被曝医療機関として汚染のある患者を受け入れた医療機関がほとんどない」という状況となった。

想定超えた複合災害で本部も孤立
 さらに今回の原発事故は、地震や津波も加わった複合災害であったことも事態を悪化させた。災害発生時には現地対策本部(オフサイトセンター;OFC)が設置され、災害対策の細かな指令を発することになっていた。大熊町OFCは、除染施設である福島県環境医学研究所に隣接していたが、停電と断水のため職員を確保できなかった。

 そこで、汚染した傷病者を離れた医療機関に搬送する必要に迫られたが、緊急被曝医療への日ごろの訓練が限られた地域で実施されていたことがあだとなり、訓練されたスタッフや対応できる施設がない医療機関では、患者の受け入れを拒否される事態となった。3月14日には、福島第一原発3号機の水素爆発により、11名の負傷者が発生したが、「搬送先を確保が非常に困難になった」と富永氏は報告した。

 事故が起これば近隣の病院で迅速に対応するという想定が裏目に出た。結果論ではあるが、より広汎な被災を想定し、広域の医療機関を確保しておくべきだったいえよう。

避難者は安定ヨウ素剤を服用すべきだった?
 放射線被曝による健康障害で真っ先に問題視されるのが、放射性ヨウ素が取り込まれた結果起こる甲状腺癌の発生だ。安定ヨウ素剤を服用すれば、放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みが阻害され、甲状腺癌の予防に有効であることが確認されている。この安定ヨウ素剤の服用を巡っても、事故後の情報が錯綜した。

 原子力安全委員会は、避難所で実施する体表面汚染スクリーニングにおいて、「体表面スクリーニングレベル10,000cpm以上なら安定ヨウ素剤を投与すべき」との助言を2度にわたり経済産業省緊急時対応センター(ERC)に送った。しかしこの情報が市町村に共有された形跡がない。

 政府対策本部から福島県知事に20Km圏残留者の移動に際して安定ヨウ素剤の服用指示が出たのは3月16日の10時であり、この時点で福島は「安定ヨウ素剤投与が必要な避難地区残留者はいない」と判断。一方、15日に住民に安定ヨウ素剤を配布した三春町では、一部の住民が服用。福島県は17日に同町に回収を指示し、21日には原子力災害対策現地本部から「安定ヨウ素剤の服用は本部の指示を受け、医療関係者の立会いのもとで服用するものであり、個人の判断で服用しない」(「安定ヨウ素剤の服用について」)という指示が県知事と関係市町村長に発出された。