※この原稿は2011年11月20日に、地震医療ネットに投稿されたものを転載しました。

 はじめまして、南相馬市立総合病院内科の原澤慶太郎と申します。

 亀田総合病院より出向となりまして、11月より南相馬でお手伝いをさせて頂いております。亀田では家庭医療のレジデントをしておりまして、外来と往診を中心とした地域医療をしておりました。もともとは外科医です。15歳のときにテレビに映るボスニア紛争を見て外傷外科医を志し、亀田で初期研修ならびに外科後期研修を受け専門医となり、心臓血管外科医として東京の循環器専門施設に出向させて頂き、ずいぶんと回り道をしましたが、どうしても地域医療がやりたいと思い転職した次第です。初心に回帰しているような不思議な気持ちですが、できることから、一歩ずつ、冬の被災地で少しでもお役に立てれば光栄です。

 このたびは仮設住宅での予防医療と健康管理を致したく活動を開始しております。ご存知の通り、現在4800名以上の方が仮設住宅で集団生活されておりますが、健康状態は決して芳しいものではありません。漁や畑仕事などの職を失い、屋内退避があった影響もあるかと思いますが、みなさん体重が増加していますし、血圧も収縮期で20〜30mHg上昇しております。外来で見ていて血糖、脂質のデータも悪化しており、この冬の心疾患、脳血管疾患イベントの増加が心配されます。また仮設住宅での感染症の流行、集団感染も対応しなければならない喫緊の課題と考えられました。

 実際に仮設住宅に入り居住者の方にお話を伺うと、現実に受診を控えてしまう構造が見えてきます。多くの高齢者の方々が、これまで通院歴があり、かかりつけ医でなんらかの内服加療をされています。市の巡回バスもありますし、地域の病院、診療所の先生方のご尽力もあり、医療機関の業務は徐々に再生しつつあります。もちろん20キロ圏内からの避難でかかりつけ医の変更を余儀なくされた方もおりますが、結局のところ相対的な不便さ・待ち時間と、自身の受診を秤にかけたときに、受診を控える、あるいは間隔を延ばしたいと考える構図が浮き彫りになってきます。

 さらに予防接種ともなると、これまでも決して接種率の高い地域ではなかったことから敷居が高いのが現実です。しかしながら、被災し避難所生活を経て、仮設住宅で集団生活を送る方々は、間違いなくこの国で最も接種優先順位が高いハイリスク群であり、解決しなければならない問題と確信しました。

 一つの解決策として、私どもは“Operation Nomaoi”なる、仮設住宅集会所でのインフルエンザならびに肺炎球菌ワクチンの出張予防接種事業を計画立案しました。野馬追は浜通り相馬地区の大変伝統的なお祭りですが、騎馬武者が馬を追い込むお祭りのイメージが、感染症を封じ込めようとする今回のわれわれの活動に重なる部分があると考えております。

 当初、市の健康福祉部健康づくり課にご相談した際には、「仮設住宅集会所での医療行為は認められない」「市としては到底協力できない」「開業医の先生方に迷惑がかかる」「医師会は許可しないと思う」と厳しい出だしでした。

 しかしながら、私自身、毎日仮設住宅の集会所のサロンに足を運び、仮設住宅の方々と接してみると、「話を聞いて接種の重要性は分かった、接種はしたい」「しかし、ただでさえ病院は混んでいるので予防接種のためだけに受診するのはしんどい、あるいは申し訳ない」「できることなら集会所で接種してほしい」という声が聞こえてきました。現場で日々サポートをされている生活支援相談員の方々も気持ちは同じでした。行政と協議を重ね、ワクチンの本数を確保し、接種を行う医師を集め、同時に毎日仮設住宅の集会所に顔を出し、また30名近くいらっしゃる全ての仮設住宅自治会長さんともお話しし啓蒙活動を進めました。