内部被ばくの問題
 白血病や悪性リンパ腫などの血液癌の治療過程において、(同種)骨髄移植の前処置として全身照射が行われているが、その線量は12Gy/6分割/3日である。しかしこの線量で死亡することはない。全身被ばくの急性放射線障害は原爆のデータから、致死線量7Sv、半数致死線量4Sv、死亡率ゼロの『しきい値』線量1Svの線量死亡率曲線を導き出し、米国防総省・原子力委員会の公的見解としている。しかし癌治療で行われる全身照射12Gy(Sv)では死亡しない。また医療用注射器の滅菌には20,000Gy(=Sv)、ジャガイモの発芽防止には150Gy(=Sv)照射されている。こうしたX線やγ線の光子線照射では放射線が残留することはない。

 しかしα線やβ線は粒子線であり、飛程は短いが身体に取り込まれて放射線を出し続ける。人体に取り込まれた放射性物質からの内部被ばくでは、核種により生物学的半減期は異なるが、長期にわたる継続的・連続的な被ばくとなり、人体への影響はより強いものとなる。このため、被ばく時当初の放射線量(initial dose)は同じでも人体への影響は異なると考えるべきであり、早急に預託実効線量の把握に努めるべきである。

 したがってパニックを避けるためにCT撮影では6.9mSvであるなどと比較して語るのは厳密に言えば適切な比較ではない。画像診断や放射線治療では患者に利益をもたらすものであり、また被ばくするのは撮影部位や治療部位だけの局所被ばくであり、当該部位以外の被ばくは極微量な散乱線である。内部被ばくを伴う放射性物質からの全身被ばくとは全く異なるものであり、線量を比較すること自体が間違いなのである。

 臨床では多発性骨転移の治療としてβ線核種のSr-89(メタストロン注)が使用されているが、1バイアル容量141 MBqを健康成人男子に投与した場合の実効線量は437mSvであるが、最終的な累積吸収線量は23Gy〜30Gy(Sv)に相当する。一過性に放射線を浴びる外部被ばくと、放射線物質が体表面に付着したり、呼吸や食物から吸収されて体内で放射線を出し続ける内部被ばくの影響を投与時の線量が同じでも人体への影響も同等と考えるべきではないのである。

 現在の20mSv問題は、より人体影響の強い内部被ばくを考慮しないで論じられており、飛散した放射性物質の呼吸系への取り込みや、地産地消を原則とした食物による内部被ばくは全く考慮されていないのである。通常の場合は、内部被ばくは全被ばく量の1〜2%と言われているが、現在の被ばく環境は全く別であり、内部被ばくのウエイトは非常に高く、人体への影響は数倍あると考えるべきである。早急にホールボディカウンタによる内部被ばく線量の把握を行い、空間線量率で予測される外部被ばく線量に加算して総被ばく線量を把握すべきである。全員の測定は無理であるから、ランダムに抽出して平均的な内部被ばく線量の把握が必要である。また排泄物や髪毛などのバイオアッセイによる内部被ばく線量の測定も考慮すべきである。現在の状況は、自分たちが作成した『緊急時被ばく医療マニュアル』さえ守られていないのである。

 さらに飲食物に関する規制値(暫定値)の年間線量限度を放射性ヨウ素では50mSv/年、放射性セシウムでは5mSv/年に緩和し、しかも従来の出荷時の測定値ではなく、食する状態での規制値とした。呆れたご都合主義の後出しジャンケンである。これではますます内部被ばくは増加する。ちなみにほうれん草の暫定規制値は放射性ヨウ素では2000Bq/kg、放射性セシウムでは500Bq/kgとなったが、小出裕章氏によると、よく水洗いすれば2割削減され、茹でて4割削減され、口に入る時は出荷時の約4割になるという。しかし、調理により人体への摂取は少なくなるとは言え、汚染水が下水に流れていくことにより、環境汚染がすすむことは避けられない。生体に取り込まれた放射線は排泄もされるため生物学的半減期や実効半減期があるが、元素の崩壊により発生した放射線は物理的半減期の時間のルールでしか減らないのである。

 現在、膨大な量の汚染水を貯蔵しているが、これも限界があり、長期的には地下や川や海へ流れることになるため、日本人は土壌汚染と海洋汚染により、内部被ばく線量の増加を覚悟する必要がある。

今後の対応について
 現在、医療従事者の約44万人が個人線量計(ガラスバッジ)を使用しているというが、千代田テクノル社の24万4千人の平成21年度の個人線量当量の集計報告では、一人平均年間被ばく実効線量は0.21mSvである。そして検出限界未満(50μSv)の人は全体の81.5%であり、年間1mSv以下の人は94.5%である。ガラスバッジの生産に数カ月要するとしたら、1mSv以下の23万人分の線量計を一時的に借用して、原発周辺の子供や妊婦や妊娠可能な若い女性に配布すべきである。移住させずにこのまま生活を継続させるのであれば、塵状・ガス状の放射性物質からの被ばく線量は気象条件・風向き・地形条件だけでなく、個々人の生活パターンにより大きく異なるため、個人線量計を持たせて実側による健康管理が必要である。それは将来に向けた貴重な医学データの集積にもつながり、また発癌や先天性異常が生じて訴訟になった場合の基礎資料ともなる。当然、ランダム抽出によりできるだけ多くの人の内部被ばく線量の測定も行い、地域住民の集団予測線量も把握すべきである。

 低線量被ばくの健康被害のデータは乏しく、定説と言い切れる結論はないが、「分からないから安全だ」ではなく、「分からないから危険だ」として対応すべきなのである。また環境モニタリング値を住民がリアルタイムで知ることができるような掲示を行い、自分で被ばく量の軽減に努力できる情報提供が必要である。また測定点はフォールアウトし地面を汚染しているセシウムからの放射線を考慮して地面直上、地上から30〜50cm(子供)用、1m(大人用)の高さで統一し、生殖器レベルでの空間線量率を把握すべきである。