ただ、開業医が自分のクリニックを1週間単位で閉めて被災地に行くことは、地元の患者さんを放り出すことになりかねず、それでは本末転倒です。特に震災の急性期については、災害医療に熟知したDMATの方々や、日常的に急性期医療を担当されている勤務医の医師のほうが必要とされるでしょう。

 私個人は、通常業務を続けることが自分の仕事と割り切って、震災翌日からは、断水の中粛々と通常業務を続けてまいりました。そのころ出来た支援は、クリニック近くの避難所にいわきからの避難民が来ておりましたので、その人たちが抱える慢性疾患のフォローや軽症疾患の対応でした。

 被災地で急性期医療以外にも比較的すぐに必要なのは、慢性疾患で薬を継続する必要がある人々への対応です。この人たちが、少ない被災地拠点病院に殺到して薬を求めるとどういうことになるか、今回のことで学ぶべきことが多かったように思います。さまざまな疾患を抱える高齢者医療や軽症者への対応、足がなくて病院に行けない孤立した人々への対応は、開業医が担える仕事だと思います。

 つくばに開業してまだ半年の、自分の足元も固まっていない一内科医に何ができるのか、震災当初からずっと考えてきました。結論として、自分のクリニックを閉めないで出来る医療支援は、月1回程度、土曜の午後から日曜日にかけて1泊2日で継続して、同じ地域に行くことかと思います。その地域の医療が軌道に乗るまで半年から1年続けるつもりで検討していました。もし地域の拠点病院の支援が必要であれば、休日の勤務を代わることで、たった一日でも常勤の医師を休ませてあげることができるかもしれません。移動診療所が可能なら、ワゴン車で往診が出来ます。

 幸いクリニックでは、クラウド型の電子カルテを導入しており、無線LANで接続できますので、遠隔地には打ってつけです。半年前まで救急車を断らないことがポリシーの病院で循環器内科として働いておりましたので、およそのことには対応できますし、携帯出来るワーファリンのコントロール用の機械もあります。自家発電機は、PCが使えるインバーター式のものを用意してあります。クリニックのナースも事務も一緒に行くと言ってくれました。往診や移動診療所は、開業医ができる慢性期ならではの支援です。でも残念ながら実現できておりません。医師と看護師と事務でチームを組んで独立して動くタイプの支援は、JMATでした。

 ところが茨城県は被災県であったためなのか、JMATを立ち上げていただけませんでした。県医師会のHPを見ても情報がありません。日本医師会の震災情報のページにリンクしてあるのみです。しびれを切らして、4月になって直接日本医師会に申し込みましたが、県単位でしか受け入れられないと断られました。被災地の病院やNPO系列の医療支援も片っ端から当たりましたが、公的なところは大抵JMATやTMATを通してほしいということで断られ、NPOも1週間程度のサイクルで来てくれるところ優先とのことでした。JMATは県単位で支援区域を指定されています。他の県のJMATは継続して募集があるのに、本県では一枠も持っていないため、JMATを一切出すことが出来ないのです。なんと残念なことでしょう。医師会を通しても、出身大学の筑波大を通しても被災地の医療支援に行く道は開けておりませんでした。

 医師は基本的に人のために働きたいという気持ちを持っていますので、応募が多いことは喜ばしいことです。本当に医師があふれていてもう必要ないというなら、それでいいのかもしれません。

 ただ、災害救助法が適応されるのは仮設住宅に入るまでとか、その先の医療は、被災県の問題だという、待ちの姿勢でいいのでしょうか。医療過疎の問題は、今回初めて出てきた問題ではありません。被災地の復興計画と密接につながっていくものですが、震災がなくてもお手上げ状態だった医療問題ではないのでしょうか。被災自治体にその解決策を求めても難しいでしょう。

 日本医師会は長期にわたる継続的な医療支援をすると表明しております。つい先日、厚生労働省も1000人規模の医師を派遣すると表明致しましたが、ただでさえ疲労している勤務医にこれ以上の負担が出来るのでしょうか?

 また費用の面ではどうなるのでしょうか。災害時の医療費は、国や市区町村が持ってくれたり、被災地の医師が働いたときは、医師会から日当が払われたりするようです。被災地以外の医療関係者は、基本的にボランティアです。厚労省の保険局からは、Q&A形式での事務連絡で、震災に伴う様々な医療行為が、「保険診療として取り扱うことができない」として羅列してあります。

 しかしながら、すべてボランティアでは長くは続きません。長期の支援が必要な場合は無料では出来ません。今回被災地に入るに当たり、いざという時の点滴から薬まで、持ち出し覚悟で揃えていきましたが、毎月の支援が持ち出しになるのなら、1回や2回ならともかく、長期では誰も手を挙げなくなるでしょう。

 一番簡単なのは、支援に行って診た分は通常の保険請求を認めていただければいいのです。今の制度では県を越えて、他の地域に行って往診することは認められていません。とりあえず、医療過疎地は医療特区に指定して、他地域の医師が交代して入ればいいのではないでしょうか。その際、クラウド型の電子カルテなら、情報も共有することが出来ます。今のようにすべて県や市区町村の単位でしか動けないと、大切な医療資源が有効利用されないのです。

 今回の震災をきっかけとして、早急に機動力と継続力のある医療システムが構築されることを切に願います。