震災から1カ月が経過した石巻で、壊滅地区以外では最も被害のひどかった地区の元世帯数11271世帯について、全戸調査を行いました。各地からのボランティアの医師、看護師、ケアマネージャー、ソーシャルワーカーなど延べ300名程度の参加を得て、4月15、16、17日の3日間にかけて実施しました。

 対象住宅に寝泊まりしている人を調べたところ、1409世帯が対象地区の住宅に居住していることが分かりました。要介護者や弱者がどの程度この地区に居るのか、ということが当初の関心事でした。たしかに、終末期の悪性腫瘍の方や、インスリンが中断している方、認知症の増悪が見られる方など少なからず対応が必要な方はいらっしゃいました。しかし、緊急で対応が必要な方は20名、準緊急(1週間以内)が84名、1カ月以内に何らかの関与が必要と思われる方は170名で、何らかの対応が必要と考えられるのは合計274名でした。このうち、20名の対応は全て終了し、地域の訪問診療につないだ方が2名で、それ以外の方は、処方再開の手続きや、臨時診療所の紹介、包括支援センターへの連絡などで大丈夫でした。褥瘡の悪化は一例も見つかりませんでした。

 これらの数は、予想に比べ非常に少ないものでした。その理由は、調査対象の地域の被害があまりにも大きい地域であったことだと考えられます。また、避難所に被災者が避難しなかった地域には、もっと要介護者が居るものと推測されます。しかし、それらの地域には包括支援センターや介護支援事業所が残存しており、震災による増悪はあるだろうと予想されるものの、既にサービスが導入されている可能性が極めて高いと考えられます。それらの地区についての調査は、今後の課題として残りますが、緊急性はあまりないかもしれません。

 いずれにせよ、石巻地区の避難所や在宅には要介護者や褥瘡の悪化した患者が非常に少ないという印象を受けました。気仙沼市で訪問診療の仕組みを作った永井医師と電話で話す機会がありましたが、毎日褥瘡の創処置に追われ、訪問が数件しかできないとのことでした。これは、明らかに石巻の状況と異なっています。この点は、石巻市介護保険課の保健師の動きと関係がありそうです。

 石巻市では保健師が中心になり、震災の1週間後ごろから、各避難所から要介護者についての相談があると、とにかく周辺の施設に入所をお願いしていました。褥瘡などがある場合には、患者がいる施設や病院に出向いて、石巻日赤に運ぶという活動を地道に行い、150名程度の患者を施設や病院に一時的に入所・入院させていたのです。おそらくこのことが、褥瘡の多発を防いだものと予想されます。

 このように、保健師の活動が有効であったという傍証が得られた一方で、今回の調査は石巻地区に残る多くの問題点も浮き彫りにしました。今回の調査で、問題だと感じた点を以下に列挙します。

1)栄養摂取
 車のない多くの家庭では、パンとおにぎりだけの生活が今も続いています。自宅避難者には配給がないため、避難所に行って期限切れの菓子パンとおにぎりをもらい、細々と食べている人が数多くいましたが、彼らの多くは、食事は満足だというのです。これは、ただでもらって申し訳ない、という意味で満足なだけで、医師の立場からすると明らかに極めてバランスの悪い食事です。

2)自宅避難
 自宅避難者の中には、ほぼ壊滅した地区に建つ、一軒家の1階部分が一部の壁と柱2本で立っている家の2階に住んでいる人や、傾きかけた3階建ての2階部分に住んでいる人、水道、電気、下水のない集合住宅に住んでいる人などがいました。次に津波が来たら、確実に被害を受けるであろう地区の中の、余震でも崩れかねない自宅や、衛生状態のよくない場所に住んでいる方が、1409世帯もいること自体、大きな問題だと感じます。