東北地方太平洋沖地震で大きな被害を受けた東北6県には、2009年末時点で1万9731人の透析患者が居住している(日本透析医学会統計調査資料)。東北地方でも秋田県、山形県内の透析施設は比較的早期に復旧し、青森県も八戸など一部の地域を除き、透析医療は正常化しつつある。

 問題は、岩手、宮城、福島(透析患者数1万2330人)の太平洋岸である。電力と水の供給を断たれた多くの民間透析医療施設での診療は困難となり、残った基幹病院から移動の可能な患者は、盛岡や仙台などの大規模透析施設に移動している。

 結果的にこうした大規模透析施設で治療する患者数が激増し、需要を満たすため、本来1回4〜5時間を要する透析時間が2〜3時間に短縮され、通常1日2回から多くて3交代の透析シフト(午前、午後、夜間など)が夜を徹して7シフト、場合によっては8シフトにまで増加されて治療が行われているという。透析時間は患者予後の重要な規定因子で、透析時間の短縮は生命予後の悪化と密接な関連を持つ。つまり十分な透析を供給できないことが第1の問題である。

 第2の問題は透析用資材・薬剤の欠乏である。透析治療の主体となる透析器や血液回路は使い捨てで、使用する透析液の原液の一部は10〜11リットルとかさばり、大量の保管は難しく、また輸送効率も悪い。特定の病院に多数の患者が押しかけたことで、病院の透析用資材、薬品の在庫は底を尽き始め、燃料不足から供給は追い付いていない。

 さらに深刻なのが治療スタッフの疲弊である。膨大な治療を支えるスタッフ数は限定され、疲労は安全な医療を脅かしている。そのほかに、今回は顕著ではないが、震災で生じる挫滅症候群のような急性腎障害患者の治療を、維持透析が阻害する問題も指摘されている。

 こうした状況から県境を越えた患者の紹介移動が進み、例えば宮城県から山形県へは100名規模で患者が移動している。しかし、こうした移動を進めても、結果は先の問題の拡散に過ぎず、根本的解決には患者の広域移送に頼るしかない。

 移送の問題点は受け入れ先(医療機関のみならず、居住などの社会生活基盤)、および安全な移送手段の確保と患者の同意である。幸い医療の受け入れ先は、東北を除く北海道から沖縄まで全国の透析施設が日本透析医会や医学会の呼びかけに応え、都道府県単位で受け入れ可能な患者数を集計し、その数は数千に及んでいる。しかし、外来透析や急性期入院透析に比し、社会的入院が可能な施設が少ないなどのばらつきがあるなどの問題もある。

 一方、宿泊施設提供などの社会的支援は、施設内宿泊を可とする施設が一部にみられるが、対応は極めて不十分である。移送は、被災地内を安全に送り出し拠点まで移送し、受け入れ拠点まで移送し、そして受け入れ拠点から病院、あるいは居住先まで送り届けることで終了する。移送手段は目的地により陸路、空路、海路が利用される。

 先の阪神淡路大震災では、神戸から患者を海路大阪に移動させ、大阪から広く患者の移送を行った。しかし今回の地震では、津波の影響で多くの港湾施設の利用は困難である。輸送手段、安全な輸送路の確保に加え、移送に要する費用負担、移送時の責任の所在など、微妙な問題も存在する。

 最後は移送される患者の同意、決断である。故郷や生活基盤の地を遠く離れ、事情によっては一人で異郷の地で生活する不安は大きい。また、送り出す家族にとっても事情は同様である。十分な透析を安全に受けるには移送が必要であることは理解できても、期限の分からない遠隔地での療養は、容易に受け入れられるものではない。

 今回の震災では、放射能汚染危険地域からの離脱という新たな要因も加わり、大規模な患者移送が不可欠となる事態は近い。広く社会の助けを得て、安全で円滑な透析患者の移送を達成させることが急務である。