■長期的な癌リスクの上昇
 チェルノブイリ周辺では500万人を超える住民が、主にヨウ素131とセシウムの放射性同位元素による汚染を受けた。原子炉からの降下物は、急性障害こそ引き起こさないが、長期にわたるのリスクの上昇が懸念された。しかし、長期的な分析の結果、甲状腺癌以外の癌リスクの持続的な上昇はなかったことが示された。スリーマイル島事故では、事故後数年間は癌診断率が上昇したが、これは徹底した癌スクリーニング検査の実施によるもので、長期的な癌死亡率は事故前と変化していなかったと報告されている。

 一方、ヨウ素131を摂取した小児の二次的な甲状腺癌は有意に増加した。甲状腺線量が1グレイ上昇するごとに甲状腺癌リスクは2〜5倍になることを示した研究がある。ただし、小児の甲状腺癌の発生率は低く、通常は10万人当たり1例に満たない。

 ヨウ素131摂取による発癌リスクは、年齢と、曝露時のヨード不足の程度によって異なる。ヨウ素不足が広く見られる地域の小児の甲状腺癌リスクは、それ以外の地域の小児が曝露した場合に比べ、1グレイ当たり2〜3倍高かった。また、チェルノブイリの事故後に安定ヨウ素剤を服用した小児の甲状腺癌リスクは、服用しなかった小児の3分の1だった。

 ヨウ素131の拡散が確認された地域の人々は、その地域の農作物や地下水の摂取を最小限に抑えるべきだ。ただし、ヨウ素131の半減期はわずか8日であるため、2〜3カ月後には放射活性は大きく低下していると予想される。

 米食品医薬品局(FDA)は、安定ヨウ素剤の予防的な使用のガイドラインを作成している。この薬剤は曝露前また曝露後数時間以内に使用しないと十分な効果は得られない。また。誤った使用は有害な影響を及ぼしうる。

■おわりに
 原子炉事故は非常に希であるため、事故後に曝露者を治療した経験を持つ医療者はほとんどいない。また、事故の際の公衆衛生対応の経験がある人もほぼいないだろう。原発近辺の医療従事者と公衆衛生担当者はそれぞれ、いざというときのための具体的な行動計画を設定し、定期的に訓練を行う必要がある。重要なのは、患者の治療においても、住民または国民との関係においても、急性放射線障害とその後の癌のリスクに対する人々の不安は強いことに留意し、曝露レベルとそれがもたらすリスクについて明確に伝えることだ。

 原題は「Short-Term and Long-Term Health Risks of Nuclear-Power-Plant Accidents」、全文が、NEJM誌のWebサイトで閲覧できる。