2011年3月11日に発生した東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故は、現在も進行中で今後の成り行きはいまだ明らかではない。米Pennsylvania大学のJohn P. Christodouleas氏らは、過去に発生した原子炉事故について書かれた様々な文献のレビューを行い、事故の発生過程と、放射性物質曝露が健康に及ぼす短期的なリスクと長期的なリスクについて概説した論文を、NEJM電子版に2011年4月20日に報告した。この中で著者らは、福島で生じた緊急事態についてどのように理解し、どう行動すべきかについての考えも示している。

 著者らは特に、スリーマイル島で1979年に発生した原発事故と、1986年のチェルノブイリの原発事故に注目した。それらが引き起こした健康被害に関する情報が、福島第一原発の事故がもたらす転帰の予測に役立つと考えたからだ。以下にその要旨をまとめる。

■原子炉の事故と放射性物質の放出
 原子力発電所では、ウランまたはプルトニウムの同位元素を燃料とし、核分裂を起こさせて取り出したエネルギーを利用して水を加熱、気化させてタービンを回すことにより発電する。燃料の核分裂により核分裂生成物放射性物質)が生成される。

 原発事故で最初に懸念されるのが、炉心冷却装置が作動しなくなり、炉心を包む原子炉圧力容器が損傷して、封じ込められていた放射性物質が放出される事態に陥ることだ。そうなれば、炉心と燃料棒が部分的に、または完全に溶融する危険性がある。温度と圧力の上昇は原子炉内での爆発を引き起こし、放射性物質の拡散に至る。

 多くの原発では、冷却システムが停止した場合の影響を最小限にすべく、鋼鉄製の圧力容器で炉心を包み込んでいる。圧力容器はさらに気密性に優れた鉄筋コンクリート製の格納容器で囲まれており、圧力容器から放射性物質が漏れても外部放出は防げるよう設計されている。

 スリーマイル島の事故では部分的炉心溶融が発生したが、格納容器がその役割を十分に果たしたために、放射性物質の拡散を最低限に留めることができた。しかし、チェルノブイリ原発は、格納容器を持っていなかった。爆発とその後の火災が大量の放射性物質の放出を引き起こした。

 スリーマイル島事故では健康被害は見付かっていないが、チェルノブイリでは事故後1年間に28人が被曝により死亡した。長期的な影響の分析は現在も引き続き行われている。放射性物質の拡散と健康への影響という観点からみると、福島の事故は、おそらくこれら2件の事故の中間に位置するものになるだろう。

■放射線曝露の種類
 原子炉の事故によって発生する可能性がある放射性物質への曝露は、一般に、(1)放射線源近くでの全身または部分的な曝露(body exposure)、(2)外部汚染(external contamination)、(3)内部汚染(internal contamination)の3通りに分類される。いずれも健康被害をもたらす可能性がある。