武田薬品工業は3月3日、同社の高血圧症治療薬ブロプレス錠(一般名:カンデサルタン)の医師主導臨床試験「CASE-J」を巡る一連の疑義を受け、会見を開いた。武田薬品工業代表取締役社長の長谷川閑史氏は「同試験の統計解析に当社社員は一切関与しておらず、データベースにアクセスしていないため、データの改竄や捏造の事実はない。京都大学EBM研究センターには奨学寄付金を拠出しているが、適切な審議を経た上でのもので、利益相反に当たらないと考えている」と語った。一方で、学会発表データをもとにしたプロモーション活動を行うなどプロモーションコード違反があったことを認め、謝罪した。

 すでに同社は社内調査を2回行っており、現在も進行中。今後については「2回目の社内調査を完了させ、事実関係を明らかにするほか、透明性を確保するため第3者機関による調査を早急に実施し、速やかに報告する予定」(長谷川氏)だ。

左から、武田薬品工業取締役医薬営業本部長の岩崎真人氏、同社代表取締役社長の長谷川閑史氏、同社医薬開発本部日本開発センター部長の中村浩己氏

 CASE-Jは、2001〜05年にかけて実施された医師主導臨床試験。対象はハイリスク高血圧症患者4728人で、アンジオテンシンII受容体拮抗薬のカンデサルタン群とCa拮抗薬のアムロジピン(商品名アムロジン、ノルバスクほか)群の2群に無作為に割り付け、安全性と有用性を比較したもの。平均追跡期間の3.2年間において、主要評価項目の複合心血管イベント(脳血管・心・腎・血管イベント)は両群間に有意差はなかったことが示されている。試験結果は2006年10月の国際高血圧学会で報告したほか、2008年2月には米国心臓協会の学術誌「Hypertension」に論文が掲載された。

 CASE-Jを巡っては、今年2月25日付けのHypertension誌(電子版)で、京都大学大学院医学研究科の由井芳樹氏が疑義を呈している。由井氏は、累積心血管イベント発現率の図(カプランマイヤー曲線)が論文に掲載された図以外に複数存在することや、統計解析に用いられた手法(Cox比例ハザードモデル)が同試験の解析には適切でないことなどを指摘している。

 例えば、2006年の国際高血圧学会で示した累積心血管イベント発現率のデータは投与開始から「48カ月後まで」のものであったのに対し、2008年2月に発表した論文では投与開始から「42カ月後まで」となっており、追跡期間が異なっている。それにも関わらず、両者のハザード比、P値、95%信頼区間などの値が全て同じ値となっていた。これについて、同社医薬開発本部日本開発センター部長の中村浩己氏は、「同試験データの収集、統計解析はCASE-J研究会と京都大学EBM研究センターが実施しており、武田薬品としては一切関与しておらず、詳細を関知していない。だが、結果を拝見した限りでは、同一期間を対象に統計解析が行われたものと推察される」と見解を述べた。またCox比例ハザードモデルで解析した経緯については、試験前に事前に定めたとおりに同手法で解析されたと説明した。

学会発表データをプロモーション資材に使用
 同日の会見では、CASE-Jに関する社内調査の結果、2006年の国際高血圧学会で発表された図を医療系メディアに記事広告として掲載し、プロモーション活動に使用したことを認めた。論文が出た2008年2月以降も、学会発表時のデータを使用しており、現在までその資材を使用できる状態であったことを説明した。

 同社取締役医薬営業本部長の岩崎真人氏は、「日本製薬工業協会の定めるルールでは、学会発表内容は学会情報として提供することだけ可能で、プロモーション資材には論文に掲載されたデータを使用することが求められている。だが、今回の調査により、プロモーション資材に学会のデータを使用していた事実が明らかになった。効能以外での使用を促進する情報活動ではないため、誇大広告にはあたらないと理解しているが、第3者機関による判断を待ちたい」と語った。

 また、一部のプロモーション資材において、より長期に試験を追跡することでカンデサルタンの有用性が示されるといった記事内容が存在したのではないかという指摘に対し岩崎氏は、「このまま長く追跡すれば、心血管イベント発現率の両群の線が交差(クロス)し、ブロプレスの有用性が示されるのではないかという期待が臨床医の中にあり、それについてプロモーション資材で触れていた。試験結果としては有意差がないにもかかわらず、資材に誤解を生む表現があった」と説明。長谷川氏は、「両群間に統計学的に有意差がないのにもかかわらず有意差があるような、当社の製品が優位であると理解されかねない表現があり、不適切であったことをお詫び申し上げる。調査を進め、再発防止に努める」と語った。

 CASE-Jに参加した医師らによる講演の謝金が利益相反にあたるかについても、「第3者機関の判断に委ねる予定」(長谷川氏)だ。