国立がん研究センターは6月7日に記者会見を開き、被災住民の被曝線量の測定や、原子炉付近の作業員における自己末梢血幹細胞の保存などを求める提案を行った。

 国立がん研究センター(理事長:嘉山孝正氏)は6月7日、記者会見を開き、福島第一原子力発電所の事故後の対策として、被災住民の被曝線量の測定や、原子炉付近の作業員における自己末梢血幹細胞の保存などを求める提案を発表した。

 同センター中央病院放射線診断科長の荒井保明氏によると、現時点では、個人の被曝線量に関する客観的なデータや、環境放射能水準と個人の被曝線量との関係、および長期の低線量率被曝と健康被害との関連性については明らかになっていない。荒井氏は、「こうした点が被災住民の不安を助長したり、科学的根拠に基づく行政の判断・対応の遅れにつながっている」と指摘し、被災住民の被曝線量測定を早急に開始するよう訴えた。

 具体的には、放射線被曝線量が高いとされる地域の若年者や屋外作業従事者を中心に、ガラス線量計(フィルムバッジ)を速やかに配布するよう提案。測定結果はデータセンターで集計後、住民本人にフィードバックして不安軽減や健康被害への警告に役立てるほか、環境放射線水準や長期的な健康被害との関連性を検証していく考えだ。

 加えて同センターは、高線量被曝の可能性が見込まれる原発事故現場の作業員を対象とする、末梢血幹細胞の保存も提案した。

 同センター中央病院血液腫瘍科・造血幹細胞移植科副科長の福田隆浩氏は、癌治療法の一つである自家末梢血幹細胞移植の有用性について説明。この治療法は、突発的な事故に伴う2〜10グレイ(1グレイは1シーベルト[Sv]に相当)の全身被曝時に、あらかじめ保存しておいた自己の末梢血幹細胞を移植することで救命率向上が期待できるというもの。同センターでは以前から、被曝リスクが高い現場作業員に対し自己末梢血幹細胞の保存を提案してきたが、「職場環境の放射線水準が、被曝線量の限度である250mSvを超えることは起こり得ないとされ、作業員の末梢血幹細胞の保存は不要とみなされていた」(嘉山氏)。

 しかし最近、被曝した作業員2人の被曝線量が250mSvを大幅に超過していた事実が判明したことを受け、嘉山氏は「高線量被曝の可能性がある作業員の命を守る上で、万一に備えて自己末梢血幹細胞を早急に保存するよう、強く求める」と述べた。

 そのほかでは、放射線被曝と発癌リスクとの関連性を長期にわたって検証するためのデータベースの作成や、医学的公開討論会の実施、被災住民を対象とする説明会の開催なども提案した。

 同センターは3月28日の記者会見で、放射性物質汚染の健康影響について、現場作業員を除けばほとんど問題がないとする見解を示していた(関連記事:2011.3.29「100mSv未満の線量なら発がんリスクなし」)。6月7日の会見の冒頭で嘉山氏は、「この2カ月の間に、事故の評価はレベル4からレベル7まで引き上げられたほか、事故発生当初からメルトダウン(炉心溶融)が発生していたなど、我々の知らない事実が明らかになった」と述べ、修正見解を発表するに至った経緯を説明した。