国立がん研究センターは緊急記者会見を開き、「原子炉付近で作業を行っている人を除けばほとんど問題がない」とする見解を発表した。

 国立がん研究センター(理事長:嘉山孝正氏)は3月28日、緊急記者会見を開き、福島第一原子力発電所の被災による現時点での放射性物質汚染の健康影響について、チェルノブイリ事故や広島・長崎の原爆生存者の追跡調査などのエビデンスから、「原子炉付近で作業を行っている人を除けばほとんど問題がない」とする見解を発表した。

 1986年に旧ソ連邦ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所で起きた事故は歴史上最悪の原発事故であり、大量の放射性物質が環境中に放出された。その後、周辺地域(現在のベラルーシ共和国、ウクライナおよびロシア連邦)やヨーロッパの各地で健康影響調査が行われた。その最新結果は、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation;UNSCEAR)」の2008年報告書にまとめられている。

 同センター中央病院放射線科治療科長の伊丹純氏は、「UNSCEARは放射線防護に関して最も権威ある組織である」として、その報告書で明らかになった放射線被曝に起因する健康障害を次のように総括した。

(1)急性放射線症候群は134人の原子炉スタッフおよび緊急対処従事者のみに起き、うち3カ月以内に死亡したのは28人。彼らは4000〜6000mSvの線量を浴びた。その後20年間にさらに15人が死亡したが、その死因は放射線被曝とは無関係(Sv[シーベルト]とは人体への影響を評価するための被曝線量の単位で、1人が年間に受ける自然被曝量は世界平均で約2.4mSvとされている)。

(2)これら緊急対処者以外に数十万人が原子炉の閉じ込め作戦に関与したが、より高い線量(1000mSv以上)を被曝した群において白血病白内障の罹患率が上昇することが示唆されているが、それ以外の人々には放射線被曝に起因する健康障害は見られていない。

(3)被曝時に青少年期(0〜18歳)だった人たちに6000人を超える甲状腺癌(分化型)が発生し、2005年時点で15人(0.3%未満)が死亡した。その原因の多くは放射性ヨウ素に汚染されたミルク・乳製品の摂取によるもので、しかもその排泄剤のヨウ化カリウムが配布されなかったことによる。当時のソ連邦が事故後に迅速な対応を取らなかったために一般公衆の甲状腺被曝が非常に大きくなった(甲状腺はホルモンをつくるためにヨウ素を必要としており、放射性ヨウ素を体内に取り込むと甲状腺に集中する。ただし放射性ヨウ素の半減期は8日と短い)。

 この25年に及ぶ追跡研究の結果から、伊丹氏は「青少年期の放射性ヨウ素への暴露と、大線量を浴びた緊急作業者の健康障害を除けば、大部分の労働者と周辺地域およびヨーロッパ諸国の一般公衆においては、健康問題を恐れる必要は全くない。彼らは、自然放射線と同様またはたかだかその数倍の低線量(0.3mSv[ベラルーシ、ロシア、ウクライナの住民]〜30mSv[避難民])の放射線に暴露されたにとどまる。生活はチェルノブイリ事故により障害されたが、放射線学的立場からは個々人の健康問題に対する展望は明るいものである」と述べた。

 また、同センター研究所所長代理の中釜斉氏は、「外部被曝による甲状腺癌リスクについて15歳以上の大人ではほとんどリスクが増加せず、15歳以下の小児においても100mSv以下であれば有意なリスク上昇は認められない」とした。

 一方、がん対策情報センターがん情報・統計部長の祖父江友孝氏は、日本の原爆被災者約10万人の追跡調査結果から、「100〜200mSv以下の低線量域では、広島・長崎の原爆被爆者においても明らかな発がんリスクの増加は確認されていない」と強調した。

 放射線を被曝した場合の健康影響としては、急性影響と慢性影響があり、慢性影響の主たるものが発がんリスクの増加。広島・長崎の原爆被爆者の追跡調査では、被爆後2〜3年でまず白血病が増加し始め、5〜10年でピークに達し、その後時間の経過とともに低くなっていく。固形癌は被爆後10年目くらいから増加が始まるという。