糖尿病診療を取り巻く環境は刻々と変遷しており、国内外において診断や治療、糖尿病合併症にかかわるさまざまな知見が報告されている。2010年5月27日、岡山で開催された第53回日本糖尿病学会年次学術集会ランチョンセミナーにおいて、和歌山県立医科大学名誉教授の南條輝志男氏は、糖尿病の新診断基準や、米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)によるコンセンサスアルゴリズム等、近年特に注目を集めているトピックスをとりあげ、その概要について解説を行った。

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 近年、HbA1cを血糖コントロールの指標としてだけでなく、診断基準として活用する動きが活発化している。わが国では、1999年の時点で日本糖尿病学会(JDS)においてHbA1cを診断基準に採択すべきか否かが検討されている。その際、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の判定区分別にHbA1c値の分布をみたところ、HbA1cの値で糖尿病を明確に判定できないことが明らかとなり、正常型がほとんど含まれないHbA1c(JDS値)≧6.5%を補助診断として活用することとなった。すなわち、「(1)糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)、(2)HbA1c(JDS値)≧6.5%、(3)確実な糖尿病網膜症、(4)確実な糖尿病診断・治療歴のいずれかの条件がみたされた場合は、1回だけの検査でも糖尿病と診断できる」とされた。

 その後、大血管症の予防・治療などの観点から世界的に診断基準を見直す流れとなり、米国では2009年に開催されたADAにおいて、新たな診断基準としてHbA1cの採用が提唱された。こうしたなか、わが国では2009年4月、清野裕委員長のもと糖尿病診断基準検討委員会が設置され、適切な診断基準の策定に乗り出した。

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 その結果、従来から診断の入り口として用いられてきた空腹時血糖値、OGTT2時間値、随時血糖値に、HbA1cを加えた新しい診断基準が策定された。新しい診断基準では、これらのいずれかが基準値を超えていれば糖尿病型と判定する。そして、血糖値とHbA1cがともに基準値を超えていれば糖尿病と診断できる。それ以外の場合は別の日に検査を行って再び基準値を超えれば糖尿病の診断が確定する。ただし、必ず1回の血糖値を評価することとしており、2回ともHbA1cのみで診断することは認めていない(図)。なお、新しい診断基準では、現行のJDS値で表記されたHbA1c(JDS値)に0.4%を加えたNGSP値に相当する国際標準化された新しいHbA1c(国際標準値)を使用することとする。HbA1cの表示方法には、JDSが定めたJDS値のほか、米国を中心に世界的に普及しているNGSP(National Glycohemoglobin Standardization Program)値がある。

 南條氏は、糖尿病診断におけるHbA1c活用の利点として、(1)1回の採血で済む、(2)絶食など採血条件の制限がない、(3)検体の遠心分離が不要な点などを指摘した。一方、問題点としては(1)測定値の標準化が未達成、(2)血糖測定に比べ高価な点などを挙げた。

 治療面については、現在、作用特性の異なる種々の経口血糖降下薬が使用可能であり、それらの適正使用が臨床における重要な課題となっている。この点に触れた南條氏は、糖尿病は成因、病態ともきわめて多様な疾患であるため、「ファーストチョイス」という概念で薬剤選択を考えるべきでなく、成因・病態に合った薬剤を選択する「ベストチョイス」という考えで望むべきとした。  

 糖尿病治療ガイド(日本糖尿病学会編)では、代謝異常の程度のみならず、年齢や肥満の程度、ならびにインスリン抵抗性の程度を評価して、使用する経口血糖降下薬の種類を決定すべきとしている。南條氏は、病態に合った薬剤ということに加え、長期投与の安全性が評価されており、かつ経済効率の良い薬剤も選択に際して重要なポイントになることを強調。このような観点から、インスリンと、グリメピリドなどのスルホニル尿素(SU)薬、ビグアナイド薬が基本になると語った。

 また、2009年に発表されたADAとEASDによるコンセンサスアルゴリズムではメトホルミンが最初の選択薬として推奨されているが、南條氏は「これはインスリン抵抗性が強い傾向にある欧米人の病態を考慮したものであり、インスリン分泌能が比較的低い日本人にそのまま適用できない」と述べ、わが国では生活習慣の改善に加え、グリメピリドをはじめとするSU薬を使用するケースが多い実情を指摘した。

 最後に南條氏は、「2型糖尿病の診断および治療を取り巻く環境は、刻々と変遷している。各報告の結果を短絡的に評価すべきではなく、背景も踏まえて慎重な評価を行い、日常臨床に活用していく姿勢が大切である。また、治療選択肢が広がりつつあるなか、各患者の病態と薬剤の特徴を十分に把握したうえで、有効性のみならず安全性、経済性も視野に入れてベストチョイスを心がけることが大切である」と結んだ。

※アマリールの詳細は添付文書(PDF)をご覧ください。