糖尿病患者が依然増加し続けるなか、糖尿病血管障害の克服は早急に対応すべき重要な課題と言える。2009年10月16日に京王プラザホテルで開催された日本脳神経外科学会 第68回学術総会ランチョンセミナーにおいて、久留米大学医学部糖尿病性血管合併症病態・治療学教授の山岸昌一氏は糖尿病血管障害のメカニズムについて “高血糖の記憶(Metabolic Memory)”という視点から解説を行い、2型糖尿病の治療の考え方および第三世代SU薬の有用性についても言及した。

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 近年、糖尿病に伴う血管障害メカニズムを解く鍵として『高血糖の記憶(Metabolic Memory)』に注目が集まっている。Metabolic Memoryとは、“過去にどのくらいの高血糖に、どの程度の期間曝露されたか(diabetic exposure)が、その後の糖尿病血管合併症の進展を左右する”という概念である。

 1型糖尿病を対象に、合併症抑制における厳格な血糖コントロールの意義を検証したDCCTでは、6.5年間の追跡により、強化療法群で細小血管障害の有意な抑制効果が確認され、試験終了後、さらに追跡を続けたEDICでは11年後に細小血管障害とともに大血管障害の発症も有意に抑えられることが示された。

 2型糖尿病患者を対象に実施されたUKPDS 33では強化療法による大血管障害抑制効果に有意差が認められなかったが、その後の追跡調査UKPDS 80において、細小血管障害の進展リスク低下に加え、心筋梗塞(p=0.01)や死亡(p=0.007)に関しても有意なリスク低下が確認された(Log-Rank test、Holman RR et al.: N Engl J Med 359(15), 1577-1589, 2008)。同研究では、こうした初期の良好な血糖コントロールによりその利益が継続する、つまり遺産的効果が得られるという意味でLegacy Effectという表現が用いられた。血糖の記憶という点で、Metabolic MemoryとLegacy Effectは同じ現象と考えることができる。

 山岸氏は、「1型糖尿病、2型糖尿病いずれにおいてもMetabolic Memoryという現象が存在することが示唆された。高血糖が記憶されないよう、可能な限り早期から介入を行うことが重要で、それが最終的に細小血管障害、大血管障害の両方の抑制につながる」と指摘した。

 では、なぜMetabolic MemoryあるいはLegacy Effectという現象が起こるのか。山岸氏は、これらの現象を最もよく説明できる物質としてAGEs(Advanced Glycation End Products : 終末糖化産物)をあげた。

 高血糖が持続している状況下では、生体内のタンパク質が糖化されやすい状態にある。AGEsは還元糖から形成されるが、シッフ塩基やアマドリ化合物が形成される初期反応は可逆的である。しかし、さらに高血糖状態が持続すると、アマドリ化合物の一部がAGEsを形成する経路へと進む。この反応は不可逆的で、いったんAGEsが形成されると後戻りはできない(図)。山岸氏は、「AGEsは高血糖が記憶された結果であり、いったんAGEsが形成されると、AGEsを減少させることはできない」と述べた。

 AGEsによる血管障害メカニズムも明らかになりつつある。血管を構成する細胞膜上には、AGEsの受容体RAGE(Receptor for AGEs)が存在し、AGEsと結合することにより情報が伝達され、酸化ストレスの産生を促し、炎症反応を惹起すると考えられる。最近では、AGE-RAGE系とレニン・アンジオテンシン系がクロストークし、血管障害の進展にかかわっている可能性も示されている。こうしたメカニズムを踏まえると、AGE-RAGE系は、糖尿病血管障害に対する重要な治療標的の1つと捉えることができる。

 山岸氏は、「AGEsを形成させないことが根本的に重要で、AGEsの形成を阻害するためには厳格な血糖コントロールによりHbA1cを常に低く保つことが不可欠である。このような観点から、優れた血糖降下作用を有するSU薬はAGEs形成阻害に働く理にかなった薬剤だと考えられる。第三世代SU薬のグリメピリド(アマリール(R))は、効果、pleiotropic effect(多面的作用)、安全性の面でその他のSU薬にはないメリットが期待できる。同じ系統の薬剤でも種類によって特性が異なることを理解しておくことが大切である」と結んだ。

※アマリールの詳細は添付文書(PDF)をご覧ください。