循環器疾患のリスク因子の中でも2型糖尿病の増加は近年著しく、主要なリスク因子としての位置を占めるに至っている。さらに、糖尿病患者ではカテーテルインターベンション後の再狭窄率が高いことも報告されており、冠動脈疾患の治療において糖尿病は避けて通ることができない重要な原因疾患と言える。2009年9月18日にロイトン札幌で開催された第57回日本心臓病学会学術集会ファイアーサイドシンポジウムにおいて、近畿大学の宮崎俊一氏および熊本大学の小川久雄氏による講演が行われ、冠動脈疾患の治療と予防に関する一連のエビデンスとともに、糖尿病の存在を視野に入れた取り組みの重要性が示された。

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糖尿病合併冠動脈疾患例に対するPCI治療の長期予後
 宮崎氏はまず、1996年に報告されたBARI研究において、糖尿病患者の5年生存率は冠動脈バイパス術(CABG)の方が経皮的冠動脈インターベンション(PCI)よりも良好だったという結果を示し、「冠血行再建術に際し、原因疾患としての糖尿病を念頭に置いた冠動脈疾患治療はきわめて重要である」と指摘した。

 冠血行再建術において最初の血管内径が大きいほど良好な生命予後が得られると考えられているが、糖尿病においては、疾患に伴い血管内径が小さくなっている可能性がある。宮崎氏らは、待機的初回経皮的冠動脈形成術(PTCA)成功例を耐糖能と血管径で層別し、長期予後を検討した。その結果、血管径が小さい耐糖能異常例は、その他の症例に比べてMACE(Major Adverse Cardiovascular Events)が高頻度で、長期予後が有意に不良であった(p=0.016、Kaplan-Meier法)。その他の症例は、当初5年間の予後に大きな差はみられなかったものの、5年以降、血管径が大きくても耐糖尿異常例では生存率の加速的な低下がみられた。

 宮崎氏らが狭心症患者を対象に実施した検討では、耐糖能異常および糖尿病では、正常耐糖能に比べ血管径が小さく、狭窄病変長が長いという特徴が示され、糖尿病がびまん性の小血管病であることを裏付けた。また多変量解析では、食後高血糖が、小さい血管径(averaged reference diameteter <3.0mm)、びまん性病変(averager lesion length >10mm)に寄与する有意な因子であることが明らかとなった。冠動脈疾患をはじめとする動脈硬化性疾患の抑制において、「食後高血糖の是正」が1つの重要なポイントになると考えられる。

 PCIは、薬剤溶出性ステント(DES)が実用化されると、再狭窄は格段に減少した。宮崎氏は関連の研究を示しながら「DESを用いることでMACEの頻度はCABG施行時の成績にかなり近づいてきた。しかしながら、長期生命予後に関しては、依然としてPCIとCABGの間で有意差なしというのが現在の状況である」と語った。

糖尿病と冠動脈疾患−二次予防から一次予防へ−
 心筋梗塞患者は健常人や狭心症患者に比べ、再梗塞などの発症頻度が高いため、二次予防が重要となる。小川氏はまず、日本人急性心筋梗塞におけるアスピリンの二次予防としての意義を明らかにしたJAMIS、日本人心筋梗塞後のCa拮抗薬投与の有用性を示したJBCMI、心筋梗塞後二次予防におけるスタチンの意義を示したMUSASHI-AMIなど、わが国における急性心筋梗塞二次予防に関する一連のエビデンスを紹介した。

 続いて小川氏は、心血管イベント発症と血管内皮機能障害との関連を指摘した。小川氏が、レーザー散乱光法と吸光度法により血小板凝集の状況を観察した結果、急性冠症候群では、安定狭心症ではみられない血小板小凝集塊が検出された。また、冠動脈疾患患者において、血小板凝集能の亢進が心血管イベントの発症につながっていることも示した。

 一方、糖尿病患者では血小板由来マイクロパーティクル(PMP)が有意に増加している(p<0.001、χ2検定)ことなどから、小川氏は「糖尿病患者では血小板機能が亢進しており、これが心血管イベント発症の機序の1つになっている可能性がある」と述べた。

 糖尿病患者の大血管障害を防ぐには、血糖値の正常化が基本的かつ重要である。小川氏は、新規発症2型糖尿病患者を対象としたUKPDS33では、厳格に血糖コントロールを行った強化療法群と従来治療群との間に優位差はなかったが、試験終了後の追跡調査UKPDS80では心筋梗塞などの大血管障害リスクが有意に低下した点に着目し、「早期から確実にHbA1cを下げて維持することで、いわゆるLegacy effectにより最終的に心血管イベントの抑制につながる」と述べ、早期からの厳格な血糖コントロールの重要性を強調した。

 2008年12月に発表された、米国糖尿病学会(ADA)欧州糖尿病学会(EASD)による2型糖尿病管理に関するコンセンサスアルゴリズムでは、「十分に検証された中心的治療法」として、まず生活習慣の改善とメトホルミン投与を試み、HbA1c 7.0%未満に低下しない場合は基礎インスリン療法またはSU薬(グリベンクラミド、クロルプロパミド以外)の追加が示されている。小川氏は、日本人のインスリン分泌能は欧米人に比べて低いため、インスリン分泌促進を念頭に置いた治療も重要としたうえで、「第三世代SU薬のグリメピリド(アマリール)は、投与開始4週目よりHbA1cが投与前7.2%から6.9%と有意な改善がみられ(p=0.05、Bonferroni test)、その効果が維持されることが報告されている(浦風雅春ほか : 糖尿病 50 (12) : 835-841, 2007))。また、第二世代SU薬とはちがい、虚血心筋保護効果に関与するミトコンドリア内膜にあるATP 感受性 カリウム(MitoKATP)チャネルを抑制しないため、虚血プレコンディショニングによる心筋保護効果も期待できる。事実、主観的な指標として評価した胸痛の程度はグリメピリドでは有意に軽減されていることが示されている(図)」と述べた。

 最後に小川氏は、「糖尿病患者の動脈硬化性疾患の進展を抑制するには、適切な薬剤で早期から厳格な血糖コントロールに努めることが大切である。また、日本人冠動脈疾患二次予防、一次予防に関して種々のエビデンスが得られている。これらの成績を踏まえ、日本人に適した予防戦略を積極的に実践すべきである」と結んだ。

※アマリールの詳細は添付文書(PDF)をご覧ください。

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