米国立老化研究所のLenore J. Launer氏

 2型糖尿病患者は一般人口に比べて認知症を発症するリスクが高いことが知られているが、そのリスクは血糖降下療法によって多少は減らせるかもしれない。リスク因子の厳格な管理による心血管イベント抑制効果を検討したACCORD試験のサブ研究、MINDにおいて、治療前後の認知機能と脳の形態変化を調べた米国立老化研究所Lenore J. Launer氏らは、厳格な血糖管理を行った群では通常治療群より脳の萎縮速度が若干緩やかであることを見いだした。この知見は、12月4日から8日までドバイで開催された世界糖尿病会議(WDC2011)で報告された。

 ACCORDは、1万人以上の2型糖尿病患者を対象に、HbA1c<6%を目標とする厳格な血糖降下療法とHbA1c 7〜7.9%を目標とする通常治療の心血管イベント抑制効果を比較、同時に厳格な血圧管理(目標収縮期血圧〔SBP〕<120mmHg)と通常の血圧管理(目標SBP<140mmHg)、強力な脂質管理(スタチン+フィブラート)と通常の脂質管理(スタチン+プラセボ)についても比較した二重の2×2デザインの試験である。

 そのサブ研究であるMINDには、ACCORD登録者の3割弱に当たる2977人(厳格血糖管理群1469人、通常血糖管理群1508人)が参加。登録時と治療20カ月後、40カ月後にDSST(digit symbol substitution test)をはじめとする各種の認知機能検査を実施し、スコアの変化を調べた。また、632人についてMRIにより脳容積を評価するサブ研究を行い、ベースラインで614人、40カ月後にそのうち503人にMRIを施行した。

 2977人の平均年齢は62.5歳、女性の比率は46.6%、2型糖尿病の平均罹病期間は10.4年、登録時の平均HbA1cは8.3%で、29.2%が過去に何らかの心血管イベントを経験していた。厳格血糖管理群と通常血糖管理群の間には、背景因子に有意な片寄りは認められなかった。

 解析の結果、登録時から40カ月後までの両群のDSSTスコア変化は、厳格血糖管理群が−1.62、通常血糖管理群が−1.94であり、有意な差は認められなかった。しかし、MRI上の脳容積変化は、厳格血糖管理群が−13.0cm3、通常血糖管理群が−17.7cm3であり、脳容積の減少は小差ながら前者の方が有意に少なかった(P=0.0007)。

 すなわち、厳格な血糖降下療法は通常の治療に比べて脳容積の減少を抑制することが示唆されたが、この現象に伴って認知機能の改善や認知機能低下の抑制といった臨床的な効果は見られなかった。厳格血糖管理群では通常管理群より死亡率が有意に高率だったACCORD試験の主解析の結果を考慮すると、「脳容積の維持効果だけでは、厳格な血糖降下療法を推す理由として不十分と言わざるをえない」とLauner氏はいう。

 しかし、脳容積の差という形態的な差異が認知機能という臨床的な差異に反映されるまでにはタイムラグがあるかもしれない。実際、本研究の対象患者の平均年齢は62.5歳と、認知症の好発年齢である70歳台よりかなり若い。厳格血糖管理群と通常血糖管理群の脳容積の減少率を計算すると、前者は−0.14%/年、後者は−0.57%/年となる。このわずかな差が徐々に広がり、10年後、15年後に認知機能の差として現れるということは十分考えられる。Launer氏は「脳容積の変化と認知機能の関係については、さらに時間をかけて追跡を続ける必要があるだろう」と締めくくった。

(日経メディカル別冊編集)