デンマーク・コペンハーゲン大学のCarolyn F. Deacon氏

 DPP-4阻害薬の登場から5年。現在、世界的には5種類のDPP-4阻害薬が上市されている。12月4日から8日までドバイで開催された世界糖尿病会議(WDC2011)では、「インクレチン関連薬の現状と将来」と題したシンポジウムが行われ、多くの聴講者が詰めかけた。シンポジストの一人として登壇したデンマーク・コペンハーゲン大学のCarolyn F. Deacon氏はDPP-4阻害薬の特徴を系統立てて紹介した上で、血糖降下作用はもちろん安全性にも優れ、付加的な効果も期待できるDPP-4阻害薬は、アスピリンのように広く使われる薬剤になり得るとの展望を語った。

 Deacon氏はまず、DPP-4阻害薬が、GLP-1によるグルカゴン分泌抑制という血糖調節の中核を担うホルモン系をターゲットとして設計・創薬されたことに言及、別の用途に使用される中で偶然血糖降下作用が発見され、作用機序に不明な点が多い既存の経口血糖降下薬とは大きな違いがあることを指摘した。

 GLP-1の役割や代謝は詳細に研究されており、DPP-4分子の3次構造も明らかにされている。その情報を基に創薬されたDPP-4阻害薬は、DPP-4分子の酵素活性部位にぴったり収まる大きさと形状を有し、高い選択性でDPP-4を阻害する。これによりもたらされる血糖降下作用は他の経口血糖降下薬に遜色なく、しかも他の分子への影響がほとんどないため、副作用はプラセボ並みであるという。

 現在までに全世界で製品化されたDPP-4阻害薬は、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、アログリプチン、リナグリプチンの5剤である。薬力学や薬物動態はそれぞれ異なる。

 DPP-4の最大阻害率は、シタグリプチンが97%と最も高く、次いでビルダグリプチンが95%、アログリプチン90%、リナグリプチンとサクサグリプチンがともに80%となっている。

 In vitroでのDPP-4選択性は、シタグリプチンとアログリプチンが高選択性、他の3剤が中程度の選択性だが、in vivoではいずれの薬剤もDPP-4以外の酵素への阻害作用は認められていない。

 この5剤の中で、リナグリプチンのみが胆汁排泄型の薬剤であり、腎障害や肝障害を伴う患者にも使用できるという特徴がある。他の4剤は腎排泄型であり、腎障害や肝障害の程度に応じて半量〜1/4量投与や慎重投与、もしくは原則禁忌とされている。

 Deacon氏は、以上のような特徴を踏まえた上で、DPP-4阻害薬の将来展望について、次のように考察した。

 血糖降下作用を今以上に高めることができるかどうかについては、高いDPP-4選択性や最大に近い阻害率を考えると改良の余地は限られている。安全性についても現行のDPP-4阻害薬の完成度は高く、これ以上の改善を望むことは難しいだろう。

 しかし、GLP-1受容体は膵臓以外にも数多く存在する。また、DPP-4の基質はGLP-1以外にも存在する可能性がある。したがって、DPP-4阻害薬により血糖降下以外の作用が得られる可能性は高いと考えられる。

 実際、DPP-4阻害薬と他のクラスの経口血糖降下薬を比較した43試験のメタ解析では、DPP-4阻害薬により、わずかではあるが心血管イベントが有意に低下するとの結果が得られている。ほかにも、前臨床試験や動物実験で、神経保護作用や創傷治癒の可能性が示されている。

 このうち心血管保護作用については、現在、その有無を確認する4つの臨床試験が進行中で、2015年には最初の解析結果が発表される予定になっている。

 Deacon氏は、「確実な効果と高い安全性を併せ持ち、経口で容易に摂取でき、しかも主たる効果のほかにも多彩な効果が期待できるというプロファイルはアスピリンを彷彿させる」とした上で、「すべての虚血性脳心血管疾患患者に対する基本薬としてアスピリンが推奨されているように、DPP-4阻害薬も糖尿病患者に対してルーチンに投与する基本薬となるかもしれない」と締めくくった。

(日経メディカル別冊編集)