慶應義塾大学内科学教室腎臓内分泌代謝内科の田中正巳氏

 総ビリルビン低値は2型糖尿病患者における細小血管障害や大血管障害合併に関連することが示された。慶應義塾大学内科学教室腎臓内分泌代謝内科の田中正巳氏が、12月4日にドバイで開幕した世界糖尿病会議(WDC2011)で発表した。

 日常臨床において、血清総ビリルビン値と糖尿病患者における血管障害の有無に相関が見られる可能性が示唆されてきた。そこで、田中氏は、2型糖尿病患者を対象に、血清総ビリルビン値と心血管合併症との関係について解析した。

 対象は日本人2型糖尿病患者171人(男性101人、女性70人)。糖尿病性細小血管障害と総ビリルビン値、および脳卒中や冠動脈疾患、末梢血管障害などの大血管障害と総ビリルビン値の関係について検討した。

 対象者の平均年齢は63.2歳、糖尿病罹病歴は14年で、BMIは25.5kg.m2、HbA1cは9.4%(JDS値)、収縮期血圧は平均133.5mmHg、HDL-C値は平均49.0mg/dL、中性脂肪は平均189.9mg/dLだった。

 171人中、71人で糖尿病性網膜症、67人で糖尿病性腎症、135人で糖尿病性神経障害が見られた。また、27人は脳梗塞、28人は冠動脈疾患、16人は末梢血管障害の既往があった。

 薬物治療については、SU薬投与例は73人、α‐GI投与例は53人、インスリン治療例は81人、降圧薬としてARB投与例は82人、Ca拮抗薬投与例は70人、スタチン投与例は91人、アスピリン投与例は49人だった。

 解析の結果、糖尿病性網膜症が見られなかった100人では総ビリルビン値が0.81±0.38mg/dLだったのに対し、網膜症が見られた71人では0.70±0.23mg/dLと有意に低かった。糖尿病性腎症が見られなかった104人では総ビリルビン値が0.81±0.38mg/dLだったのに対し、腎症が見られた67人では0.70±0.28mg/dLと有意に低かった。一方、糖尿病性神経障害が見られなかった36人では0.72±0.21mg/dLだったのに対して、神経障害が見られた135人では0.78±0.38mg/dLと、糖尿病性神経障害の有無で総ビリルビン値に差が見られなかった。

 大血管障害との関連について解析した結果、脳梗塞の既往がない144人の総ビリルビン値が0.79±0.34mg/dLだったのに対して、脳梗塞既往例27人では0.62±0.17mg/dLと有意に低かった。末梢血管障害の既往がない155人では0.78±0.34mg/dLだったのに対して、末梢神経障害既往例では0.58±0.17mg/dLと有意に低かった。冠動脈疾患の既往がない100人では0.78±0.34mg/dL、冠動脈疾患既往例71人では0.69±0.24mg/dLで、有意ではなかったものの既往例で低い傾向にあった。

 糖尿病性網膜症と糖尿病性腎症に関する多変量解析を行った結果、性(女性)がオッズ比4.419、糖尿病罹病期間が1.089、収縮期血圧がオッズ比1.026、喫煙歴がオッズ比3.643とともに、総ビリルビン値はオッズ比0.290と、有意な発症に関わる因子として見いだされた。

 大血管障害に関する多変量解析を行った結果、総ビリルビン値だけが有意な因子として見いだされ、オッズ比は0.235だった。

 田中氏は、「ビリルビンは抗酸化作用があると考えられており、ビリルビンが少なくなることで血管障害につながる可能性が考えられる。ただ神経障害と総ビリルビン値に相関が見らず、神経障害の発症は網膜症や腎症とは違う機序かもしれない」と考察した。

(日経メディカル別冊編集)