バーゼル大学病院消化器病学教授のChristoph Beglinger氏(写真;小又 理恵子)

 バーゼル大学病院(スイス)消化器病学教授のChristoph Beglinger氏(写真)は10月29日、「刻一刻と太るヨーロッパ人」という刺激的なタイトルで講演を行い、肥満対策の重要性を訴えた。

 ヨーロッパでは、要治療と考えられる病的肥満者がこのところ急増している。英国の例では、1980年から1995年の間に病的肥満者の割合が、男性が6%から15%に、女性は8%から16%に増えたとBeglinger氏は説明する。男性の5人に1人、女性の4人に1人は肥満に該当する国もいくつかあるという。

 肥満が激増する理由は明らかで、事実上いくらでも食品を手に取ることができることと、身体的な運動量が劇的に減少したからだ。食糧不足の危機に備えて余分な脂肪を蓄積するのは人間の遺伝的な使命であり、これが肥満を招く主な理由に他ならない。ファストフードのような手軽に素早く食べられる食品の開発が、これに拍車を掛ける。

 肥満者増加の影響は劇的だ。心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、高血圧、脂肪肝、痛風、関節症、骨粗鬆症、そして癌も肥満と関わりがある。肥満によって起こる疾患の罹患率と死亡率には統計的有意差があるとBeglinger氏は言う。過体重の女性は脳卒中のリスクが75%高く、肥満の男性は癌で亡くなるリスクが33%高い。肥満の女性は2〜3倍胆石が出来やすく、肥満男性の5人中4人は睡眠時無呼吸症候群のリスクにさらされるという研究もある。

 また、心理検査では過体重の人は正常体重の人に比べ、3〜4倍うつ病や不安症を発症しやすいというデータもある。肥満者は自分たちを社会的に魅力のない存在で、周囲の人々に後ろ指を指されているように感じているとBeglinger氏は説明する。減量に成功するとこうした状況は劇的に改善する。なお、一度減量に成功した病的肥満者の約90%は再度肥満になることを極度に嫌い、失明に匹敵するストレスを感じるという。

 現在の肥満対策は、栄養指導、運動療法、行動療法、心理カウンセリングなど様々な要素を組み合わせて実施されるが、少なくとも12カ月は専門家の指導下で行うべきだとBeglinger氏はいう。最新の研究データでは、減量した体重を維持し続けることにより、関連疾患のリスクを軽減するだけにとどまらず、寿命を延長することが分かってきた。将来は、コレシストキニン、GLP-1、ペプチドYY、グレリンのような食欲のコントロールに関連する分子やホルモンの研究がさらに進み、治療が容易になるかもしれない。それまでは、各国が国家的な肥満対策を進めることにより、国民の寿命とQOLの向上に役立つはずだとBeglinger氏は話している。