トラスツズマブの効果は、腫瘍浸潤リンパ球(TILs)高値の患者において、より大きく、その機序として、トラスツズマブの腫瘍への直接作用だけでなく、抗腫瘍免疫の抑制を軽減する可能性が示された。Gepar Quattro試験におけるpCR率とTILsとの関係、FinHER試験の生検組織における免疫関連遺伝子発現とTILs、トラスツズマブの効果との関係から明らかになったもので、12月11日から14日まで米国サンアントニオで開催されているSan Antonio Breast Cancer Symposium(SABCS2013)において、オーストラリアMacCallum Cancer CenterのSherene Loi氏が発表した。

 乳癌は、これまで免疫の関与が強い腫瘍であるとは考えられてこなかった。しかし、移植を受けた患者など免疫が抑制されている患者では、乳がん発症頻度は低いものの、いったん発症した場合の予後は不良であるなど、免疫系が乳癌においても重要な役割を果たしていることを示すエビデンスもある。またLoi氏らは、Fin HER試験で、トラスツズマブ+化学療法を受けた患者の予後がTILsと有意に相関していたことを報告している。

 今回Loi氏らはまず、Gepar Quattro試験で術前に採取された腫瘍組織を用いて「トラスツズマブの効果とTILs高値とが相関する」という仮説を検証した。

 Gepar Quattro試験には445例が登録されているが、本解析では、中央施設でHER2陽性が確定された156例(35.1%)の生検組織を用いた。156例の年齢(50歳未満、50歳以上)、リンパ節転移の有無、組織学的グレード、ステージなどの患者背景は、母集団と同様だった。pCR率には違いがあったが(本解析対象47.8%対全体31.7%)、Loi氏は「判定が中央施設で行われたためと考えられ、156例は試験全体を反映する集団だと考えられる」とした。

 化学療法のタイプで層別化した後の多変量解析において、TILsとpCR高率には独立した有意な関係があり、TILsが10%増加する毎にpCR率が16%増加することが示され(オッズ比[OR] 1.16、95%信頼区間:1.01-1.32)、Loi氏は「患者免疫系と、トラスツズマブに対する反応性には関連性があることが示された」とした。

 続いて、Fin HER試験のHER2陽性乳がん232例のうち、遺伝子発現のためのRNA抽出が行われていた207例(89%)について、免疫関連遺伝子の発現とTILsとの関係を調べた。免疫抑制遺伝子はTILsの値にかかわらず、より活性化しており、腫瘍における微小環境が、より免疫抑制の状態にあることが示唆された。一方、抗腫瘍免疫に働く遺伝子にはTILsとの相関が認められ、診断時にすでにリンパ球が浸潤し、抗腫瘍免疫によって、それが抑制されていることが示唆された。中でも注目されたのがPD-1で、TILsとの関連性があり、かつ強い発現が認められた。また、PD-1、CTLA-4が高発現している患者では、トラスツズマブ治療を受けた場合、受けない場合と比較して予後が有意に良好だった。これらの発現が低い患者では、予後はトラスツズマブ治療の影響を受けなかった。

 PD-1、CTLA-4はいずれも、T細胞の活性化を抑制する負の補助刺激受容体で、過剰な免疫反応を抑制するチェックポイントとして、免疫系全体のバランス調節に寄与している。この仕組みを腫瘍細胞が利用して、異物として認識され除外されることから逃れている。最近では、抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体の抗腫瘍効果が注目され、メラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞癌などにおいて開発が進められている。Loi氏らは、HER2陽性マウスモデルにおいて、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体とトラスツズマブのシナジー効果を確認している。「さらに検証を進める必要はあるが、トラスツズマブには抗腫瘍免疫の抑制を軽減する可能性が示された。この知見は、HER2陽性乳がんにおける免疫チェックポイント阻害剤とトラスツズマブの併用によって臨床アウトカムが改善する可能性をさらに検討していく理論的根拠になる」と今後を展望した。